第17話 高校生!!
春
それは出会いの季節でもある。
新たなステージへのステップアップでもある。
「司ちゃん…大丈夫かなぁ…私、変に悪目立ちしてないよね?」
連雀は初めての慣れない場所でとても緊張しているようだった。
「らしく無いっスねー司さん、大丈夫っスよ!みんなおんなじふうに緊張してるんで!司さんは緊張を楽しんでください!」
司はいつも通りの態度で連雀に話しかける。
「アンタ、どの立場の発言よ…」
連雀は少し長い髪をハーフアップに上品にまとめていた。
その可憐な髪の毛が優しくて暖かい春の風に波乗りのようにそよそよとなびいていた。
その姿はまるで質素ではありながらも少しの派手さを司には感じさせた。
「今まであんまり聞いたこと無かったんスけど」
「連雀さんはなんでこの高校に入学しようって思ったんすか?」
司はふと思ったことを聞いてみる。
「愚問ね」
連雀のその司を見る目は残念な生き物を見るそれだった。
「私はなるくんと同じ高校に行きたかったからこの高校にしたの」
連雀は真面目そうな顔でそう答えた。
「でも連雀さん、もう成坂さんは高校を卒業しましたよね?」
司は連雀のその行動に疑問を呈する
「私はなるくんが高校生の時に高校生活の話をたくさん聞いたの」
「その高校生活の話をしている時のなるくんの顔はとっても楽しそうだった」
「もちろん、その話している内容もすっごく面白くて本当に私を笑わしてくれたし、より一層この高校に興味を持った」
「好きな人がそんなに楽しそうなら気になるじゃない?当たり前のことでしょ?」
「だから私はそのなるくんが楽しそうに話してくれた高校生活を実際に対意見してみたいと思ってここにきたの」
成坂のことを話している連雀の目はとても輝いていて、さらに少し格好良かった。
「おぉ……」
司はまさか論理整然とした答えが返ってくると思わず連雀の熱い思いに対してどう返答したら良いか考えていた。
「まぁいいわ」
「最後まで私はなるくんと一緒にいるつもりだし?」
「?」
司は連雀が言わんとすることがよくわかったいないようだった。
「ほら、私たちの両親が正門で待ってるわよ?」
煉瓦造りのその秋葉坂高校の正門は荘厳で尚且つとても美しかった。
その門の先には満開の桜が咲き誇る桜並木が新入生たちを優しく迎え入れようとしている。その景色はまるで宮殿のようであった。
「じゃ、またあとで!同じ教室だといいわね!私は先に行くから!」
連雀は親のところへかけて行く。
○
「久しぶりだな、司」
「お父さん…」
「来てたんだね?」
「娘の晴れ舞台の日に仕事に行く奴がどこにいるんだ」
司は父とのその微妙に噛み合わない会話を再びすることができて喜んでいる。
「ひさしぶり、司。元気にしてたかしら?」
「下宿先の小西荘はどんな感じ?」
話しかけてきたのは司の母だ。灰色のピンタックパンツに真っ黒のジャケットを着ている。大人らしさ全開の服だ。手にはクラッチバッグを持っている。
彼女の母は当人が嫉妬してしまうほど着こなしが大人らしさが感じられる余裕を感じられ、さらにどんな服を着てもモデル並みに綺麗に着ることができる。
「そうだねぇ…かなりいいとこだと思うよ?同じ学校の子もいたんだし?」
「あのさっき一緒に歩いてた女の子?すごくスタイルが良くて綺麗だったわねぇ——なんで下宿なんてしてるのかしら?」
「……色々あるんじゃない?知らないけど」
司はわざわざ他人の恋愛の話を親にするつもりはない。
「色々って…アンタ、同じ下宿先なんでしょ?そういうの色々聞かないの?」
「別に?気になったら聞くかもしれないけど、別に私は気にならないから」
「じゃあ、その子の名前はなんていうの?」
「
「まぁ、確かにスタイルはいいよね」
連雀の真っ白で絹のようなスラッと真上にまっすぐ伸びた足を思い出す。
対して、真っ黒とは言わないけども茶色にこんがり焼けて筋肉がもりもりついているゴツい自分の足を見てみる。
はぁ、とため息をつく。
同じ人間というのになんでこんなにも違うのか、司は改めて彼女の体を作った神様を恨んだ。
「何ため息ん中ついてんだい?」
「お父さん、私ちゃんといつも通りの格好?」
「急に何を言い出すかと思ったら…」
「いつも通りだよ。大丈夫。司はとにかくこの環境を楽しみなさい」
「高校生活は人生で一度きりなんだ。なんでもいい。たったひとつの事に全力を賭してみなさい。きっとそれは司のこれからの人生に大きく影響してくるから。高校ってくだらないことも、いろんなことでも、たった一つのことに魂を注ぎ込むととっても面白くなるから」
司はその日に焼けてシワまみれだけれどもいつになく優しい笑顔で激励の送ってくれた父の顔をまじまじと見る。
その顔を見て司は少し校舎までの足取りが軽くなった。
満開の桜のトンネルを抜けると本校舎が見えてきた。
5階建ての立派な建物だ。東西にとても長く、今まで司が通っていた小学校、中学校とも比べものにならないほどだった。
秋葉坂高校は地元でも有名な私立のマンモス校である。
「司、あそこにクラス分けのボードが設置してあるわよ?」
母が指さすその昇降口のところには10クラス分の新入生の名前がびっしりと書かれていた。
「えーっと、2組かな…?」
そこには伊東司と書かれた文字があった。
そこには利連雀という見慣れた名前も書かれていた。
司は少しほっとした面持ちで昇降口に入っていった。
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