第13話 4人でお出かけ! 2
「ったく!本当にあの男は使えないわ!」
「タオルくらい自分で買い行けばいいのに!」
法梅は階段を降りながら怒りを露わにする。
千歳はそれをしょうがなさそうな目で見ている。
「あれー?どっか行くんスか?」
1階にいたのは司と連雀だった。
この2人もどこか外に出かけるようだった。
「え?ええ、さっきあのアホ男に頼まれて買い物に行くハメになったのよ」
○
「法梅さんって兄弟とかいるんスか?」
法梅のとなりを歩くのは司だ。
青緑色のロンTにハーフパンツという一眼見ただけで部屋着ということがわかる。
結局4人全員で近くのまでドラッグストアに行くハメになった。
「うーんと、兄と弟が1人ずついるかな?」
法梅は少し逡巡した後に答える。
その顔は少し寂しそうな顔をしていた。
「えーっ?まじっスか?全然そんな感じしないんすけど…」
司は驚きを露わにしていた。
「うーん、案外兄弟たちは私のことかなり気を遣ってくれてたみたいだからねぇ」
「まぁけどほぼ毎日ケンカはしてたけどね?」
法梅は少し自嘲的になり自分でも失笑してしまう。
「でも落ち着いて考えると不思議な話よね?やっぱり毎日毎日よくケンカして過ごしていたなんて——そんな喧嘩ばっかりしていると顔すらも見たくなくなりそうだけどね?」
「はぇ〜法梅さんは愛されてたんスね!」
「本当だよねぇ〜自分で言うのもどうかとは思うけど—」
「だけどあの頃はそんな無償で無限な愛情に一切気付かなかったんだ…あの頃に気づいていたら…っていつも考えちゃうわ」
法梅は何かを懸命に思い出させないように目を閉じていた。その姿は今にも泣き出してしまいそうだった。
司はそれ以上聞かなかった。
○
「れ、連雀ちゃんは兄弟とかいるの?」
となりにいる連雀に話しかけてみる。
近くで見ると案外まつ毛が長いとうことに気がつく。
千歳はあまり話しかけたくなかったが、この気まずい空気はもっと嫌なので勇気を振り絞って話しかけた。
「私ですかぁ〜?」
「どう見えます?実は一人っ子なんです!」
「まぁ兄みたいな存在で、なるくんがいるんですけどね?」
「へ、へぇ〜」
圧倒的なコミュ力に押し負けながら千歳は最低限の頷きをする。
「こ、高校ではなんの部活に入るの?」
とりあえずここの場面はどうにか持たせようとと別の話題を連雀に振る。
「うーん、まだ何にも決めてないって感じっですかねぇ〜」
「やっぱりまだ学校にすら行けてもないから何にもいえないけど、文化系の部活かな〜」
「あっ、そ、そっかぁ〜」
「千歳ちゃんは高校の時何部に入ってたんですか?」
連雀は優しい笑顔を浮かべながら千歳に聞く
「び、美術部に入ってたよ?ま、まぁ、ほとんど私が好きな絵を描いてただけだけどね…」
千歳は連雀のそのコミュニケーションの技術の高さに感動していた。
「あー、やっぱり!そんな感じします!美術部ーって感じ?うん
、ずーっと絵を描いてる千歳ちゃんが頭に簡単に浮かびますもん!」
「な、なんかディスられた感じが…」
千歳は連雀が意外と毒舌だと言うことに気づく。
「美術部でどんな絵を描いてたんですか?」
「うーん、主に風景画だね。日常のいろんなところを写真で撮ってそれを絵に描くってことを3年間ずーっとやってたかな?」
「おぉー!じゃあやっぱりそういう美術的なことをもっと極めたくて旅籠芸術大学に入学しようとしたんですか?」
「そうだねぇ—やっぱりいつも同じことをやってると絶対に自分1人では乗り越えられない壁が立ちはだかるんんだよね。その壁をうまく乗り越えるために大学ってあると思うから、私はもっと高い技術を身につけたかったからこの大学に入学したんだ!」
「————————ハッ!!!!」
千歳は自分があまりにも自分を失っていることに気づく。
連雀は隣でポカンとしている。
「ご、ごめん連雀ちゃん!つい自分のことばっかり話しちゃって…私イタいやつだよね—」
「全然イタくないです!」
連雀はとても真面目な顔で一生懸命に謝ろうとする千歳の顔をしっかりと見る。
「自分の本当にしたいことがあって、その自分自身のすべきことを極めて大学までくれるなんて本当にすごいことだと思います!」
「そっ、そんな?好きなことばっかりやって将来のなんの役にも立たないことをこんなとこまできてやってるなんてどうしようもないやつだよ…」
「そもそも本当にしたいことがあるなんて至極当然のことじゃないの?」
千歳は連雀の唐突な尊敬の念に当惑する。
「そうです!!当然のことなんです!けれども、その当たり前のことがほとんど誰もできないから困ってるんですよ!」
「それを簡単にやり遂げてしまう千歳ちゃんを私はとても尊敬します!」
息を荒げて連雀は千歳に熱弁する。
「あ、ありがとうご、ございます」
正直千歳は連雀のことをただチャラい女とだけしか考えていなかった。
どこにでもいるような普通の女子高生。
けれども自分のやっていることが本当に正しいと言われたのはこれが初めてだった。
まさかこんな人に自分自身の存在、アイデンティティとも言えるもう一つの自分の表現を肯定してくれるとは思わなかった。
千歳は少し前を歩く連雀のその暖かな風に揺れるロングスカートを見ていた。
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