第12話 4人でお出かけ!
「と、言うわけで今からざっくり小西荘の最低限のマナーと、部屋の説明をする」
「一つは常識的な生活をしろ、これは集団生活をする上で必須になるスキルであろう。まあここにいる君たちならもうすでにできているはずだ」
「もう一つは部屋の話だ。俺は君たちの部屋に入らないから君たちは絶対に俺の部屋に入らないようにしてくれ。人間の生活で他の人達に知られて欲しくないことは山ほどあるから。だから君たちの部屋は君達で掃除してね」
千歳により正気を取り戻した成坂は小西荘のオーナーとしての仕事を改めて遂行する。
「誰がそもそもあんたみたいなキモ男の部屋に入ろうと思ったのよ?」
成坂の言葉にいちいち突っかかるのは法梅だ。
「あ、君たちは2部屋用意されてるからどっちか好きな方を使うように」
「はい、これ鍵ね」
成坂は彼女の口撃を完全に無視して話を進める。法梅は思い通り位にいかなかった時の餓鬼のように口をひん曲げる。
その様子を見ていた成坂は明らかに笑みが溢れていた。
「うーん、じゃあ私これにするっス!」
連雀が鍵をとったのをきっかけに各々が好きな鍵をとって行った。
結局、司と連雀が1階の部屋に住み、法梅と千歳が2階の部屋になった。
どの部屋も変わらず古臭くてドアもそのうちの一つなのは間違いなく、ドアと持ち主が心を通わせなければ開かないという意味のわからない仕組みになっていた。
○
(ふぅ、結局荷物上に持ってくるのと開けるだけで今日1日が終わっちゃいそうだよ…)
必要最低限の外出はしない行動的なニートにとっては千歳にとってはこのミッションはほぼ不可能に近かった。
千歳は生まれたての子鹿のようにプルプルしている情けない腕を見る。
千歳にとって今日1日の労働は数週間分の労働量に匹敵する。
(でもまぁ隣がのんちゃんだし…まぁ、いっか?)
(まだまだずっと一緒にいられる…ぐへへ^^)
千歳は計り知れない肉体的ダメージに対して最低限の精神的アプローチで対処した。
忘れると言う動作よりも記憶や感情を上書きする方が非常に簡単なのである。
千歳はダンボールの中からある一冊のアルバムを取り出す。
まだ新しいそのアルバムの中には千歳が大学で知り合って以来撮ってきた法梅の写大量の写真が丁寧に保管されていた。
その量は完全に写真集を作れるほどだし、その写真の質もどれもプロ並みにうまいものばかりだった。
けれどもそのほとんどの写真は隠し撮りである。
(ぐへへ…これからはのんちゃんの写真を心置きなく見れるぞ♡)
千歳の顔は完全に犯罪者のそれであった。
「ちーちゃーん、居る?」
改めて今まで千歳が撮った法梅の写真を眺めていると、扉の外から声がかかる。
ドアの向こうにいる声の主は法梅だ。
「いるよー!ちょ、ちょっと待ってー!」
不意にやってきた訪問者に千歳は少し驚き戸惑う。
「な、なに?」
「……怪しい」
いつも以上に辿々しいその千歳の数秒にしぐさに法梅の敏感な第6感は瞬時に反応する。
「べ、べ、別に?やましいことはなにもしてないんだからね?」
たった数回の会話でも千歳の背中には不快なほど暖かい汗がべっとり下着に張り付いていた。
「ほんとにぃ〜?」
法梅は千歳の顔をまじまじと見る。
「ほ、本当だってば!のんちゃん!信じてよ!」
ここで自分が折れてしまったらまずいと思い、千歳は必死の抗弁をする。
「ふーん?まぁ良いけど?そーゆー隠しごとしてるといつか見つかちゃうからね?その時までうまくかくしてなさいよ?」
法梅の寛大かつ聡明な頭脳によってなんとか千歳の煩悩爆発本の発掘は免れることができた。
千歳がそんな法梅に感謝していると、廊下の一番奥の部屋のドアが開く。中から出てきたのは成坂だった。
「——なんだ?少し騒がしいと思ったらあんたらか」
「なによ?なんか文句でもあるわけ?」
「ねぇよ。ただ—あんたらはこうやって話している時が一番楽しそうに見えるな」
「べ、別に私たちを褒めたからって何かいいものが出るってわけじゃないからね?勘違いしないでよ?キモ男!」
「はいはい、わかったから—ていうか別にわざわざ妬みをあんたらに表明しにきたんじゃないからな?」
「実はあんたらのタオルとかを買うのを忘れてしまっていた」
「はぁ?じゃあ今から買いに行けってこと?」
「いやよ!めんどくさい!先に確認しとけばよかったじゃない!それにあんたと違ってとんでもなく重い荷物を持ってこの家の2階まで運んできて今日私はとてつもなく疲れているの、それくらい理解しなさいよ。オーナーなんだから!」
法梅は露骨に嫌な顔をする。
「ああ、あんたなら知ってるだろ?俺よりお友達多そうだしな」
「の、のんちゃん…行こっか?」
千歳は恐る恐る聞いてみる。
「あーもう!しょうがないわね!なにを買えばいいのよ!」
法梅は行かないと言う選択肢を諦めてさっきまで重い荷物を持ってもう思うように動かない体を気合いで動かそうとする。
「はい。ここに足りないもの書いてあるから」
「あ、あとこれお金」
成坂は徐に財布から2万円を出した。
「んじゃー行ってこい!俺はその間に家でやることするから。よろしく!」
「ふん。あんたなんてどうせエッチなサイト見て1人で興奮してすぐに冷めるんでしょ!このクソキモ童貞男!」
肩を揺らしながら法梅は階段を降りていく。
千歳はその後に続いていく。
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