第10話 始まりの日
目が覚める。
正確にいうと精一杯一晩中閉じ続けていた目をこの朝を待っていたかのように目を開ける。
親元を離れて少なくとも3年間生活し続けることになる
一緒に小西荘に暮らすことになる人はどんな感じの人なんだろう?
優しいのかな?それとも厳しいのかな?
オーナーの成坂さんってどんな人なんだろう?
怖い人なのかな?それとも面白い人なのかな?
そんな素朴な疑問が頭の中を駆け巡る。
司は少し綺麗な淡い緑をしたワンピースに腕を通す。
シックな皮のベルトを腰に巻き付け、父親の車の準備ができたぞという声の元に玄関から飛び出る。
改めてこの16年住んできた家の外見をまじまじと見て、
連雀の家から子西荘までは徒歩5分とかからない。
いつも連雀はその少し大きくて父親のと似ているようで似ていない背中を追いかけて、追いついて、追い越してきた。
連雀はその一番近くて一番安心する存在にいくら助けられたかわからない。
きっとこれからも競争をしながら生きていくんんだと思いながら小西荘へ向かう。
必要な荷物を事前に小西荘に置いてきてしまったのでとても身軽だ。
思わずこの春の麗かで暖かな陽気に合わせて足が意思に反して軽やかにスキップを奏でてしまう。
それだけ
「ちょっと!転ばないように気をつけてね!」
千歳のその完全に浮き足立っている姿に
「もー…のんちゃんは私の保護者ですか?私はそんなもうおこちゃまではありませんーいーだ!!ごふっ」
鈍い音と共に千歳は電柱に思いっきり頭をぶつける。
この圧倒的なフラグ回収の速さに法梅は同情しかねない。
法梅は思いっきり息を吸って、
息を吐く。
小西荘のオーナー、
成坂は正直とても緊張している。
4人の繊細な女性をも一重に引き受けるのだ。
男性的にも、立場的にも平静を保っていられる方が難しい。
(本当にこれからやっていけるのだろうか…)
(いや、引き受けてしまった手前にもう引き返せないのだがね…)
壁にかけられている少し古ぼけた写真を手にとる。
そこには豪快に笑っている祖父母とお淑やかに笑っている母の
(香子…)
(俺は本当にやっていけるのだろうか…)
優しくその写真を撫でて壁にその写真を壁に戻す。
ほぼ同時にびんぼーんと残念なチャイムが鳴る。
時間のようだ。下に行って来客を迎えにいかなければならない。
改めて自分の部屋を見渡す。
「行ってきます」
これが俺、小西成坂の人生の分岐点だった。
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