第7話 その少女は探し求める

 大学を出てから1年経って、家族から離れてのアパート暮らしは社会の波風をもろに受けて自分が社会の一角にいる存在なのだとよりいっそうに感じれる。

 今年大学2年になる茶枝法梅ちゃえだのりうめはただでさえ安い家賃をさらに少しでも抑えるために塩平千歳しおひらちとせという同じ大学2年生とルームシェアをしていた。


 生まれ故郷からはとても遠く離れており、尚且つ芸術系の大学ということもあって法梅は同じ高校の人間はいなかったため入学式の時までずっと1人だった。

 入学式も滞りなく済まされ、ぶらぶら大学の敷地内を散策して時間を潰しつつゆっくり自宅へ戻ろうかと考えていたところに、ある女性が話しかけてきた。


「あ、あの!」

「私、塩平千歳って言います…私大学で誰も知っている人がなくて…だから!その、連絡先を交換してくれませんか?多分これも何かの縁だと思うので!」


 法梅に記録されてる記憶をたどりながら懸命に思い出す。

 そうだ。

 それはさっき入学式の時に隣に座った女の子だった。

 その時の千歳はすごく不安そうだった。誰かに助けを求めているようで必死になって近くにいる人間に縋り継いているようだった。

 そんなか弱い少女のために法梅は微力ながらでも助けてあげようと決めた。

 法梅はすぐに合点が行ったように


「ええ、もちろんよ。連絡先はインスタかしら?それともLINEかな?」


「えぇーっと、じゃあ、LINEの方で」


 そんなちょっとした出会いで私、茶枝法梅は塩平千歳と出会った。


 ○


「千歳ちゃん…だったっけ?あ、私の名前は茶枝法梅。好きなように呼んでね。千歳ちゃんどこの学科なのかな?」


 とりあえず当たり障りのないことを聞きながら法梅は千歳と近くのベンチに腰掛けた。


「わ、私は美術学部のデザイン科に行きます。キャンパスの一番奥の棟ですよね?」


「そうだねぇ、確か一番奥にあったね。ちなみに、私は建築学科だからその隣の棟になるのかな?」


「本当ですか?じゃあお昼ご飯の時……あ、でも、法梅さんお友達いますもんね?」


 千歳の顔は自分で目を輝かせながらすぐに残念がっていた。

 喜怒哀楽の大きい女の子だと思いながら法梅は千歳がとても面白い存在に感じた。


「残念。私この大学に知り合い1人もいないの。まあ地元からかなり遠いし、そもそも芸術系の大学だからね…」


 法梅は肩をすくめていかにも残念そうな素振りをする。


「そうなんですか!?てっきり、そのような性格だからオープンキャンパスの時点でもう友人の1人2人くらいは作っていると思っていました!」


「…流石にそんなにコミュ力お化けじゃないいからねー?」

「けれどももうちょっと事前にいろんな人に話しかけておけばよかったなぁ」


「本当ですよね…私ももっと他人とコミニュケーションをとることができるような能力が欲しかったです」


「高校の時何してたの?」


「美術部で1人こもってひたすらデッサンか抽象的な絵を描いていました。ずーっと美術室にいるもんですから学校の同級生からは美術の魔女とも呼ばれてました…」


「へ、へぇー」


 やはり美術に魂をかけているような人間は行動も他の人とは想像しえないようなことをするなと1周回って法梅は感動していた。


「あーあ…ひとりぼっちで昼ごはんかぁ」

「憂鬱だなぁ…」


 法梅は改めてこの少し先の未来のことを考えるととてつもないくらい憂鬱になる。

 この先4年間は1人寂しく飯を食らわなければならない。

 しかも学食の食堂に私の居場所なんてないかも知れない。


「だ、大丈夫です!!」


「な、なんで?」


 突然ぐいぐいくるようになった千歳に法梅は驚く。


「法梅ちゃんならきっとすぐに友達ができます!そのコミュ力をふんだんに使えばきっと大学生活いろんな友人に囲まれながら学食、食べれるはずです!」

「それに…」

「私がいるから!!」

「何かあっても私が必ずそばにいいます!」

「それで…その、これから、一緒に今度学食べませんか?」


 千歳は勇気を振り絞って法梅にその想いを伝えた。

 今にも逃げ出してしまいそうなその足をなんとかその場に保たせて法梅のその回答をうやうやしく待つ。

 法梅の回答までのかかった時間はほんの一瞬だったが他人と話す経験が著しく乏しい千歳にとってはとんでもなくながく、一種の苦痛の時間でもあった。


 法梅は驚きつつも、少し唇に笑顔を浮かべて


「もちろんよ!私にとって千歳ちゃんはこの大学での友人第1号だから。これからはずーっとあなたの友人だわ!」



「——!」


 千歳のその笑顔は今にも崩れて泣き出してしまいそうなほどだった。

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