第15話

 牧さんに別れを告げ、俺たちは【Ghost】を後にすると、ふと気が付いた事があった。


「薊。肝心の服を買ってないぞ」


 そう、俺たちは帽子しか買っていない。このままだとアクセサリーだけ気合いが入った女が爆誕してしまう。


「そうね。私としたことが、完全に気圧されてしまったわ」


 店から離れた事で、完全に調子が戻ったようだった。


「適当にでかいモールでも見て回るか」


「今日は貴方に全てお任せするわ」


「じゃあ行くか」


 モールまで少しだけ距離があったためタクシーで移動するかと考え、適当にタクシーを呼び止めた。


「えっ…。タクシーで行くの?」


 なぜか驚いている薊に俺は一枚の紙を見せつけた。


「タクシーチケットって知ってるか?」


「…でも、悪いわよ」


「使わないとウチのオーナーに怒られるんだよ。さっさと行こうぜ」


 何故か遠慮している薊を無視して車に乗り込み、行き先を告げた。


 ⭐︎


「木葉くん。今日は流石に申し訳ないから、飲み物でも奢るわ」


「マジか。ラッキー」


 薊は併設されているカフェを指差し、そう告げた。丁度喉が渇いていたところだ。ここは甘えておくことにしよう。


 カフェの席に着くとそれぞれ飲み物を注文し、少しだけまったりとした雰囲気になった。


「そういえば、お前と秘密基地以外の場所で会うのって初めてだな。変な感じがする」


「それもそうね。いつも放課後は一緒にいるから、違和感がなかったわ」


「この方が学生らしいといえば学生らしいか」


「勉強している時が、一番学生らしいと思うわよ」


「…若いうちに遊べってよく言われんだよ」


 くすくすと笑う薊は随分と世知辛いことを言った。そうこうしていると注文していた飲み物が運ばれてきた。


「ゴチになります」


 運ばれてきたコーヒーを少しだけ掲げ、飲み物に口をつけた。


「くるしゅうないわ。…それやめてくれない?私が悪い人みたいになるから」


「お前もちょっと乗ってんじゃねえか」


「そうしなければいけないような気がしたのよ…」


「お前って意外とノリ良いよな。普段はお堅そうなのに」


「失礼ね。どんなイメージよ。貴方こそ不真面目そうなのに頑張るところは可愛いわよ」


「…そんなことより、どんな服が欲しいんだ?」


 ニヤリとして言った薊に敗北を感じた気がして、無理やり話題を変えた。ニヤニヤしてんじゃねよ。


「そうね。そうしたら貴方から頂いた帽子に合う服を見繕ってもらいましょうか」


「…少しは自分で考えろよ。…女の服はわからんぞ」


「大丈夫よ。いつもオシャレな木葉くんならきっとできるわ」


 こいつ、ずっとイジってきやがる…


「どんなになっても文句言うなよ!」

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