第13話

 勉強も一段落つき休憩していると、薊が口を開いた。


「今日来た時から気になっていたんだけれど、貴方今日いい匂いがするわね」


「…なんだよ急に。セクハラか?」


「セクハラじゃないでしょう。可愛くないわね。ちょっと気になったのよ」


「朝の香水がちょっと残ってんだろ。…そんなに匂うか?」


「なんか、うん、木葉くんって感じの匂いだわ。いい匂いよ」


 そう言った薊は香水を振っていた俺の腕とり、手首をスンスンと嗅いでいた。コイツは匂いフェチなのだろうか。というよりもこれは客のおっさんがキャバ嬢にやる行動ではないのか。


「あー、鬱陶しい。香水貸してやるから離れろ」


 キャバ嬢の気持ちがわかり、気まずくなった俺はドカッとソファを立ち香水を取った後、薊に押し付けた。


「これすっごい高いやつじゃない!雑誌で値段だけ見たことがあるわ…」


 過去一大きい声を出した薊に驚きつつ、俺は言葉を返した。こいつもこういう物に興味があるんだな。


「貰い物だ。値段なんてわかるわけないだろ」


 オーナーが買ったはいいが、好みじゃないと言って押し付けられた香水だ。あの人のことだから安物は使わないと思っていたが、まさかそんなに高いやつだったとは。


「前から思ってたけど貴方中学生なのに、とてもオシャレよね。…本当に中学生?」


「…中学生だよ。何回疑うんだ。バイト先のオーナーがやたらとそういうものくれるんだよ。男は良いもん身に付けろってな」


「とても良い人なのね。でも羨ましいわ。私、ファッション誌とか見ててもオシャレとか分からないの。…木葉くんお願い。…年下の男子に、それも受験生に頼むような事じゃないけれど、私にオシャレの仕方を教えて欲しいの」


 薊は言いずらそうに言った。こいつも年頃の女子ということか、ファッションとかに興味があるらしい。

 しかし困ったな、俺もオーナーに貰うか連れ回されているだけなので、正直よく分かっていない。


「…友達に頼めよ。藤さんとかいるだろ」


「こんな恥ずかしいこと友達に頼めるわけがないじゃない。私のイメージが崩れるわ。それに、こういうのは皐月は当てにならないわ」


 …こいつ、イメージとか気にしてたのか。あと藤さんが当てにならなそうなのはなんとなく共感できるな。


「まあ、別に明日休みだしいいぞ」


「…本当?じゃあ明日昼から連れていってね」


 嬉しそうに薊は言った。明日は俺も久しぶりに服でも買おうか。


「まあ、いつも教えて貰ってばかりじゃ癪だからな、たまには俺が教えてやるよ」


 教えられるかはわからないが、とりあえず強がっておくことにした。




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