第12話
タクシーに乗り込んだ俺は自宅とは違う場所を案内した。なんとなく、秘密基地に行きたい気分だった。オーナーと別れてから、少ししか経っていないというのに太陽は先程よりも高く昇っている気がした。
タクシーが雑居ビル近くの交差点付近に止まると、俺は会計を済ませ秘密基地へ向かった。勿論領収書は貰わなかった。
3時間ほど秘密基地のソファで眠った俺は制服に着替えた後、タバコと酒の匂いを誤魔化すように香水を振って学校へ向かった。
⭐︎
しっかりと時間ギリギリで登校した俺は、夏休み前の少しだけ浮き足立っている雰囲気にうんざりしながら教卓前の席につきそのまま机に突っ伏すように眠りについた。
(薊に相談してみるか…)
こういうのは頭のいい人間に頼るのが一番楽だろうと考え、俺はそのまま眠りについた。
目覚めた頃には下校時刻になっていたので秘密基地に向かおうとしたが、ふと朝のホームルームの内容が頭をよぎり、帰ろうとしている隣の席の女子生徒に声をかけた。
「ちょっといいか?」
声をかけると女子生徒はビクッと反応し、こちらに顔を向けた。
「わ、わたし、ですか…」
「あー、すまん。ちょっと聞きたい事があっただけだ。テストの範囲を教えてくれないか?」
またビクッとした女子生徒は、あ…あの…その…と言いながら手帳を取り出し、テスト範囲が書かれたページを差し出した。
「ど、どうぞ…」
「すまん、助かる」
礼を言った俺はスマホでそのページの写真を撮り、女子生徒に手帳を返した。
「なんか、ごめんな」
「だ、だ、だ、大丈夫でひゅ!」
何かが大丈夫だったらしい女子生徒はそのまま足早に教室を後にした。ほんの少しだけ傷ついた気がしたが、目的も達成したため秘密基地へ向かった。
⭐︎
秘密基地で薊からの課題をやっていると扉が開いた。
「こんにちは。あら、真面目にやっているようで偉いわね」
「…まあな。今日は藤さんはいないのか?」
「皐月は部活動だそうよ。何、私だけじゃ不満?」
「そういうわけじゃねえよ。…むしろやりやすいな」
薊は少しだけ驚いたような表情をした後、制服を掛けソファの隣に腰掛けた。
「そういえば、テストがあるらしい」
「夏休み前だものね。このまま勉強していたら高得点取れるんじゃないの?」
「…わかんねえけど、南守行くならどれくらい取ればいいんだ?」
「とりあえず1番を目指しなさい」
薊はさも当たり前のように言った。
「…マジかよ」
「マジよ。誰が教えていると思ってるの」
本気の目をした薊はそのまま言葉を続けた。
「全部100点なら、絶対に1番よ」
とんでもない脳筋理論だった。
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