第8話
「…俺は、恋とかしてる暇なかったんだよ」
俺の呟きを聞いて二人は神妙な顔をしている。てっきり揶揄われるものだと思っていたが、この反応はこの反応で居心地が悪い。
「…なんか言えよ」
「瓜生くんは童貞ということだな!」
最低の発言だった。
「まだ、中学生だものね…」
優しい目をした薊の反応にもイラッとした。
「あーもう、俺こんな感じだろ?…誰も関わってこないんだよ。俺から声かけてもビビられるし、ましてや家関係で色々あってそんなんする暇なかったんだって」
「恋をしている人間が偉いと言うわけでもないんだし、これからそういう相手も見つかるわよ」
その発言を聞いて、過去一番で薊が優しい気がした…
「菊花とかどうだ!」
藤さんが茶化すように言うと、薊がその優しい顔を歪め彼女を睨んだ。
「皐月。あんまり茶化さないの」
「ごめん!でも茶化したつもりはない!」
私は本気だ!というと薊も諦めたかのように肩をすくめた。
「私からも質問いいかしら。…言いにくかったら答えなくてもいいのだけれど、家が大変って大丈夫なの?」
ためらったように薊からの質問が投げかけられた。茶化すような意図はなく、どこか心配そうな表情に見てとれた。
「…言い難いってことでも無いんだけどな。俺、両親共にいないんだ。親父は顔も知らないし、母親は俺が小学校上がる前に消えた。おまけに、家に住まわせてもらってる婆ちゃんは、母親の死んだ前の旦那の親だから血は繋がってないと来た」
ややこしい家庭環境はあまり他人に言うことではない。それでも言ったのは、助けただけで勉強を教えてくれ、目をかけてくれる薊に恩を感じていたからだ。
クソみたいな人生である事は、周りと比較して薄々感じていた。そんな奴が、クソ野郎にまでならないギリギリのラインが恩に報いるという事だと思った。
「そんなわけで、初恋なんてしてる暇なかったっつーわけだ!」
話していてやばい雰囲気になっていると気づき、俺は明るく話を締めた。
「瓜生くんは…苦労人だったのだな!」
藤さん《バカ》が号泣していた。感受性が豊からしい。引いた目で藤さんを見ていると、薊が神妙な表情をしてと近づいてきた。
…そしてそのまま何も言わず、俺を抱きしめた。
顔を覆うように薊の体があり、前が見えなかった。彼女の体温やら、柔らかさ、彼女らしい匂いになぜか、安心している自分がいた。
「大変だったのね…辛いことを話させてごめんなさい。そこまで深刻だとは思わなかったのよ…」
俺としては、現状をありのまま話していただけなのだが、気を遣わせてしまったらしい。やっぱり言わなきゃよかったかなとも思った。
「あんたらが、気にすることじゃねえよ。そういうやつも中にはいんだろ。…あともう離せ」
薊を引き剥がしてソファに座らせた。
薊は何かを決心するように喉を鳴らすと、こちらを向いた。
「…木葉くん。今の話を聞いて私は決めたわ。貴方を
「わ゛た゛し゛も゛!」
「…そーかよ」
煌々と燃えるランタンの炎を見ながら、俺はぶっきらぼうな返事しかできなかった。
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