第7話
薊と藤さんから勉強を教わること3時間。外はすっかり暗くなり、鉄筋コンクリート建の雑居ビルも冷たくなる時間帯となった。電気設備も死んでいる秘密基地では、俺はいつもキャンプ用のランタンを着火し灯りを獲得していた。
「キャンプみたいだな!」
藤さんはランタンが珍しかったのか、興奮したように言った。
「電気が止まっているんだ。灯りはこういうもので確保するしかない」
「もうだいぶ暗いし、勉強はこの辺で終わりにしましょうか」
「そうだな!華の十代が、このような所で勉強ばかりというのも不健全だ!遊ぼう!」
「そうね。勉強だけというのも何だし、何かしましょうか」
「勉強が終わるのは嬉しいが、遊ぶって何するんだよ」
「秘密基地っぽいことだ!」
「秘密基地っぽいことって何だよ」
俺は秘密基地を作りはしたが、秘密基地っぽい遊びというのを知らない。
考え込んでいると、見かねた薊から声が掛かった。
「皐月はいつも適当なのよ。気にしなくていいわ」
「薊は、なんか秘密基地っぽいことってわかるか?」
「秘密基地っぽいことというものは分からないけれど、折角だし貴方の事を色々教えて頂戴?皐月も貴方の事を私が教えた範囲でしか知らないわ。…もちろん私も」
「いいな!瓜生くん質問コーナーという訳だな!」
厄介な企画が始まるらしい。言っても聞かない女が二人に増え、抵抗も無駄そうなので俺は大人しくその企画とやらに乗る事にした。
「まあ、代案もないしそれでいいよ」
「早速私からいいか!初恋はいつだ!」
藤さんから遠慮の欠片も無い質問をされた。
「…黙秘する」
「却下する!」
「私も気になるわ、答えなさいよ」
黙秘権は行使できないようだ。
俺は、恋というものをしたことがない。しかし、この二人にそれを知られると面倒なことになるのは明白なので、答える気はなかった。そもそもこの質問は、男から女に聞くものではないのか。少なくとも俺の働いている店ではそうだった。
「私も答えたらいいのだな!私は小2だ!」
肉を切らせて骨を断つことに躊躇がねえ。藤さんは初手で退路を立つ選択をした。
「…なんでそんなに知りたいんだよ」
「気になるからよ。さあ皐月は教えたわ。答えなさい」
薊は藤さんが言ったことを自分の手柄のように追い詰めてきた。ひょっとして、こいつが一番汚いんじゃないか。
「さあ!言うんだ!お姉さんと恋バナしよう!」
何でここまで気になっているのか分からないが、これ以上抵抗してももっと言い出しずらくなりそうなので、俺は嫌々ながらも答えることにした。
姿勢を正す俺を二人は期待した眼差しで見つめる。
「………したことない」
恥ずかしさだか面倒やらの気持ちのやり場に困り。俺は窓の外を見つめた。
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