第5話
薊から指導を受け始めて、そろそろ1週間だ。あいつは飽きもせず、毎日秘密基地に顔を出していた。
いつものように問題を解かされ、ここが理解できてないだの、ここはこうしろだのと指定を受けている時だった。
「木葉くんは、漢字と計算だけはできるのね」
「あ?なんだよ急に」
「解答をいつも見ていると、そこだけ指摘することがなくて寂しかったのよ」
「漢字は領収書で覚えた。計算は会計だな」
「アルバイトも中々勉強になっているのね。その割には、文章問題の会計計算だけ全問間違っていたわよ?」
「そんなわけあるか、見せてみろ。自信あったんだ」
解答用紙を奪い取り、紙に目を向けた。りんごとみかんの値段を連立方程式を用いて導く問題だったはずだ。
「合ってるだろ」
お前が間違っているんだ、と目で訴えかけ紙を薊に戻す。
「…りんごもみかんも、何故勝手に3割も高くなっているのかしら」
「世の中そんなもんだぞ」
…フルーツ盛りとかな。
「どんな世の中よ…良い?導いた解答に数を足す必要はないの」
TAX30%はこいつの常識には無いらしかった。………そういえばあの30%ってなんなんだろうな。
「疲れているようだし、そろそろ休憩にしましょうか」
困惑している俺を見てか、薊は休憩を促した。
「そういえば、貴方学校に友達はいるの?」
「…いねえよ」
「いなそうだものね」
くすくすと笑う薊は何故か機嫌が良さそうに見えた。
「お前もいなそうだろ」
「失礼ね、一人だけいるわよ」
…うわあ、嘘っぽい。一人だけと言うのが、リアリティを演出しようとしている感が満載だ。俺は素直に答えたというのに、この女は何故見栄を張ろうとするのだろうか。実に可哀想な女である。
「…失礼なことを考えているようね」
「何見栄張ってんだって思ってただけだ」
澄ました顔を、満面の笑みに変え無言で近づいてくると、思いっきり太腿を抓られた。
「痛ってえ!!」
「失礼なことを言うからよ。ごめんなさいは?」
「離せ!離してください!ごめんなさい!」
「偉いわね、ちゃんと謝れて。謝ってくれた事だし、特別に許してあげるわ」
薊の鋭い爪から解放された俺は、一応血が出ていないか、抓られた場所を擦り、掌を見た。幸い血は出ていないようだ。
これ以上痛めつけられるのも嫌なので、機嫌をとっておくか。
俺は薊の目を見つめ言葉を放った。
「薊さんには友達100人いマス!」
…………「痛ってえ!!!!!」
⭐︎
薊の塾の時間になり、俺は勉強から解放された。
「次は友達も連れてくるわね」
「無理すんなよ」
「………貴方も教えて貰う人が多い方がいいでしょう?」
顔に青筋を立てながら薊は言った。
「そのお友達(仮)が居ると仮定して、マジで連れてくる気か」
「ちゃんといるし、本当に連れてくるわ。私、貴方を合格させるためならどんな手でも使おうと思っているもの」
「…うるさいやつなら連れてくんなよ」
失礼するわね。と言い、薊はそそくさと秘密基地を後にした。お友達(仮)の人格面には全く触れなかったのは少し気になるが、あいつの知り合いならまともな人間だろう。
「少し早いが、店に行くか」
俺も秘密基地を後にする事にした。
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