第15話 村の発展

 獣人族との同盟が組まれ、2週間が経過した。

 獣人族は多少の文化の違いはあれど、善悪の区別や仲間意識など、根本的な考え方は人間族と同じだった。


「アノンさん。薪割り終わったよ」


「おぉ、もう終わったのか。獣人族は力持ちだねぇ」


「そりゃ、毎日あんだけ美味い飯を食えりゃな」


「がはは! 違いねぇ!」


 この2週間、大きないざこざも無く、交流は進んだ。


 ここまでうまく彼らが打ち解けてくれたのは、「美味い飯を食べるために仕事を頑張る」という共通目的を持つことによって、仲間意識が芽生えたからだろう。

 僕はそう考えている。


「なぁ! 兄貴! 次は何をすればいい?」


 フエルはすっかり僕に懐いた。

 僕の事を兄貴と呼ぶようになり、与えられた仕事が終わると、ボールを拾ってきた犬のように尻尾をパタパタさせながら、次の指示を仰ごうとする。

 まるで主人に仕える犬のようだ。


「そうか。じゃあ、次は飼料の運搬をしてきてくれるかな?」


「わかった!」


 フエルはものすごい速さで森へと走って言いった。

 彼は言いつけ通り、怪我をさせた村人達に謝罪とサポートを毎日することになった。

 怪我をした者達も、年相応の子供らしい行動をするフエルが可愛いのか、もう怒りは無いようだった。


「ふふ。あの子は長男でしたから。兄が欲しかったのかもしれません」


 後ろを振り向くと、双子の赤ちゃんを抱いたフエルの母親、エルザさんが立っていた。

 獣人族の成長は早く、赤ちゃん達は2週間で倍の大きさまで成長していた。


「体の調子は大丈夫ですか?」


「えぇ。お陰様で。今ではもう毎日の食事が楽しみで楽しみで……」


 出産直後でまだ体にダメージはあるはずなのに……。

 獣人族は肉体だけではなく、内臓も強いらしい。僕は苦笑いを浮かべた。






 この2週間の間、僕は自分の能力について色々調べた。

 そのおかげで幾つかの事が判明した。


 まず、能力を使った時の疲労度は量ではなく、値段によって変わるようだった。

 安い肉を大量に生み出した時より、高級和牛を1パック生み出した時のほうが疲労度が高かった。


 次に実験したのはどれだけ食べ物を生み出せるかだ。

 100万円分を生み出したあたりで、僕は気絶してしまった。


 体力が回復するまで1日を要した事を考えると、1日に生み出せる食べ物は100万円くらいが上限のようだ。


 そして何より、一番初めにやった大事な実験。それは――


「コッコケッコケーーーッ!」


 取り寄せバッグの中でバタバタと羽音を羽ばたかせ、鳴き声を上げたのを確認し僕はぐっと手を握りしめた。

 加工された鶏肉ではなく、生きた状態の鶏をイメージしたのである。


「やった! 成功だ!」


 リュックの中では元気そうな鶏のオスとメスが入っていた。

 食べものに関するものなら何でも取り寄せられ、その状態もイメージによって変えられるなら、生きている鶏もいけるのではと考えたのだが、上手くいった。


 こちらの世界にも鶏に近い鳥はいるのだが、これはよく卵を産むように品種改良をされた鶏だ。

 これからは狩りではなく、畜産で肉を手に入れる事が出来るようになる。そうすれば、飢えともおさらばである。


「シノノメさん。鶏舎の場所ですが、何故、4か所に分けるのですか? しかも、村の四隅にしてしまうと、盗まれる可能性も高くなると思うのですが……」


 指示の補佐を頼んでいたメティスが首を傾げた。


「たしかにそれも怖いけど……。もっと怖いのは疫病だからね」


「疫病ですか?」


「あぁ。鶏は繁殖力が高いから、数匹残っていればすぐに増やせる。だけど、一か所に固めてしまった場合、疫病が蔓延すると全滅のリスクがある」


「なるほど。鳥小屋を分ければ、疫病が出た鳥小屋だけを処分すれば良いと言う事ですね」


「そう。鳥小屋の世話をする人も、それぞれ別の人がやるようにしてね? 人を媒介して感染する病気もあるから」


「わかりました」


 メティスは相変わらず呑み込みが早い。ウイルスの概念も彼女はすぐに理解し、僕が取り寄せた洗剤や廃油で作った石鹸で手を洗う事の大事さを、村人達に分かりやすく説明してくれた。


 少しずつ、少しずつだが、この村は豊かになってきている。


 獣人達の家も出来たし、そろそろ余裕が出来た頃だ。

 仕事ばかりしていて、村人達も疲れただろう。

 このあたりで一度、リフレッシュできるイベントをしたほうがいいかもしれない。


 僕はオルマルさんの元に行き、ある提案をすることにした。


「鶏舎の完成記念のお祭りをしませんか?」

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