第13話 結論

「さて、どうするか」


 村の会議堂に、僕は呼ばれ、オルマルさん達含め、5人で話し合いをすることになった。

 何故僕も呼ばれたんだろう? 僕以外の人は皆、30代後半以上の年配者であり、この村の重役だ。

 場違いじゃないかなぁ……。


「初めに言っておきたい。ロウボ殿の自害だけは避けたい」


 オルマルさんが言った。


「あぁ。それは俺も同意だ。あれが獣人族としての責任の取り方なのだろうが、我々にとって、メリットが無いからな」


「そうだな。族長が死ねば、彼らの怒りが俺達へとが向くかもしれん」


 エルマーさんとダミアンさんが同意した。


「フエルという少年を殺すというのも無しだ。子供は殺したくない。出来れば、物品での賠償がいいんだが、賠償出来るようなものは何もないと言っていたな」


「あぁ。彼らの痩せ方を見るからに、それは本当なのだろうな」


「となると、どうする? こちらの面子的にも不問にするわけにもいかんだろう?」


 良い案が出ず、皆が黙り込んだ。

 沈黙が数十秒続いたのち


「シノノメさん。アンタの意見を聞かせて欲しい」


 オルマルさんが僕へ意見を求めてきた。


「え、ぼ、僕ですか?」


「あぁ、アンタの世界では、こういう時、どうするのか参考にしたいんだ」


「………」


 困った。僕の世界の法律で言うなら、子供が犯罪を犯せば少年院行き、責任や賠償は保護者である親が取る。

 しかし、今求めている答えがコレでない事は僕でも分かる。

 

 なら、僕は……


「少し、話が逸れるかもしれませんが、お話してもいいですか?」


「あぁ。大丈夫だ」


 僕は1つ深呼吸をし、話し始めた。


「僕が住んでいた国はとても豊かでした。しかし、貧しい国も当然存在していて、そこでの犯罪率は、僕の国の何十倍もありました。

 では、その国の人間は僕達の国の何十倍も悪人が多いのかと言うと、そういうわけではないと思うんです。

 貧しいがゆえに、犯罪に手を染めるしかなかった。そんな人が一定数、いるはずなんです」


「根は善人だったが、貧しさゆえに悪人にならざるを得なかった人間がいたと言う事だな」


「その通りです」


 僕はこくりと頷いた。


「フエルと言った少年は、我々を殺す気は無かった。それは皆さんの共通認識ですよね?」


「あぁ。戦いの中、それは俺達も分かった。何度も降伏を提案してきたしな」


「噛みつかれたりしたら即死だからな。俺達は殺す気だったが、アイツは手加減をしていた」

 

 皆、うんうんと頷いた。


「そう。あの子は自分が間違っている事に気づきながらも、母親の為に手を汚すことを選んだんです。10歳と少しの子供が……です」


 僕は自分の胸に手を当て、諭すように話す。


「考えてみてください。我々がもし、彼らの立場だったら、どうしたか」


「…………」


 皆、黙り込んで、俯いていた。

 飢えて死ぬくらいなら、同じような事をしたかもしれない。皆がそう考えていた。


「そうだな。我々が今、飢えていないのは、シノノメさんのおかげだ。俺達と彼らの違いなんて、それだけしかないんだよ」


 オルマルさんはそう言って、顔をあげた。


「だから、僕はこの提案をしたいです」


 僕が口にしたのは――






 僕達が会堂から出ると、村の入り口で待っていたロウボ達が顔をあげた。


「我々の処遇は決まりましたかな?」


 覚悟を決めた男の目で、ロウボは落ち着いた声で言った。


「あぁ」


 オルマルさんはロウボの前に立つと、彼の目をしっかりと見て言った。



「我々は貴方達、獣人族を、この村に迎え入れたい」



「…………は?」


 獣人族の皆は、ポカンとした表情を浮かべた。


「それは……我々に、この村の奴隷になれということでしょうか?」


「いえ、違います。我々の仲間になって欲しいんです」


 オルマルさんは建設中の小屋のほうをちらりと見た。


「我々は今、食料不足を解決させるため、鶏舎の建設や畑の拡大をしています。ですが、その労働力が不足しているんです」


 だから、とオルマルさんは続けた。


「我々はあなた方に十分な食料を提供します。その代わり、貴方達には労働力を提供して欲しい」


「そ、それは願ったり叶ったりなのですが……それでは我々に利しかないではないですか! 今回の一件の罰にはなりません」


 信じられないという表情でロウボは叫んだ。


「罰ならありますよ」


 オルマルさんは苦笑いを浮かべた。


「この村にいれば、ドーラに見つかる可能性があります。貴方達が住んでいる森の奥地とは比べ物にならない危険な場所だ」


「そ、それはそうかもしれませんが、だとしても……」

 

 オルマルさんはロウボへと歩み寄り、彼の手を握った。

 

「これは我々が話し合った結果です。普通に争えば、私達は獣人族には勝てません。ですが、貴方達は謝罪を責任を取ろうとしに来た。それは、昔の恩義を忘れていなかったからでしょう」


「…………」


「ロウボさん。私は貴方を信頼します。もう一度、私達の友となってくれませんか?」

 

 オルマルさんのその言葉が決め手だった。ロウボは小さく体を震わせたあと


「わかりました。我々、獣人族、全17人。貴方達、クレスタ村の一員とならせてください」


 そう言って、深々と頭を下げたのだった。

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