第7話 ご機嫌な朝食
「疲れた……」
夜も更けた頃、僕はオルマルさんが用意してくれた寝床に飛び込み、重い息を吐いた。
やはり間違いない。
食材の生成には体力を使うみたいだ。2、3時間料理をしただけでこんな疲れる事などなかった。
ごわごわした布団に硬いベッド。普段なら寝付くのに苦労するような寝床だったが、疲れのせいか一瞬で眠りにつくことが出来たのだった。
朝。
眠れば元の世界に戻っているのではと淡い期待を抱いたのだが、そんなことは無かった。
体力は回復しているが、少し体が凝っている気がする。硬いベッドで寝たせいかもしれない。
「シノノメさん。起きていますか?」
ストレッチをしていると、扉の向こうから、アティナの声がした。
「うん。今起きたところだよ」
扉を開くとアティナが1人で立っていた。
「オルマルさんは?」
「薪割りに出かけています。多分もうすぐ帰ってくるかと」
「そっか。もう少し早く起きたら手伝えたんだけど……」
そう言ったものの、自分に薪割りの経験が無かった事を思い出す。ついていっても足手まといになりそうだ。
「他に何か手伝う事はない?」
「えっと、でしたら、朝食の準備はまだなのですが……その……」
アティナは何かに期待したような目でちらちらとこちらを見た。
可愛い反応だなぁと僕はくすりと笑ってしまった。
「じゃあ、僕が朝ご飯を作るよ」
「本当ですか! ありがとうございます!」
パァァァとアティナの表情が明るくなる。口元にはよだれがたれていた。
「ただ、まともな料理は時間がかかるからなぁ。お昼ご飯はしっかり作るから、朝ごはんはこれで勘弁してね」
なんでも取り寄せられるなら、これもいけるはずだ。
僕はスキルを使い、牛乳とコーンフレークを取り寄せた。
「それは何ですか?」
「コーンフレークって言って、乾燥させたトウモロコシに砂糖を塗したものを牛乳と一緒に食べるものだよ。僕達の世界の簡単な朝ごはんかな」
それに、コーンフレークには様々なビタミンが添加されている。栄養失調気味の村人にはぴったりの食事だ。
「食べる前に村の皆にも配ってくるね」
「私も手伝います!」
僕達は村を回って、コーンフレークと牛乳を配って回った。
皆、僕が来ると、まってましたと言わんばかりに飛び出してきた。特に子供達にはズボンを掴まれ、「昨日のまた食べたいー!」と懇願された。
どうやら、昨日の一件で、僕に対する警戒心は完全にゼロになったようだ。食べ物の力、恐るべし。
そして、意外だったのは、村人達が驚いたのがコーンフレークより牛乳のほうだったこと。
「な、なんでこんなに冷たいんだ?」
紙パックに入った牛乳を持った村人達は、皆、同じ反応をした。
どうも、僕が取りよせる食べ物は、自分のイメージによって鮮度や温度が変わるようだった。
パック入りの牛乳は冷蔵されているものになるし、昨日取り寄せた卵やチーズも冷蔵庫で冷やした時の温度と同じくらいだった。
「この乳は火にかけたほうがいいのかい?」
「あ、いえ、殺菌は既に済んでいます。これは一度火にかけたものを冷やしてあるので……」
「サッキン? 何だいそれは?」
どうやら、この世界では菌の発見もまだらしい。生乳だと腹を下すことも多いから、動物の乳は加熱するのがセオリーだそうだ。
いかに現代の食品加工技術が素晴らしいものなのかを思い知らされた。
「ただいま戻りました」
配り終え、二人が家に戻るとオルマルさんが薪割りから帰ってきていた。
「面白い食べ物だな。乾燥させた穀物と山羊……いや、牛の乳か」
アティナとオルマルさんはコーンフレークを匙ですくうと、ぱくりと口に入れた。
「甘い……。こりゃもしかして砂糖か!?」
「凄く美味しいです! これ、本当にトウモロコシなんですか!? 甘くてサクサクしてて……」
二人とも気に入ったのか、口いっぱいに頬張り始めた。
「そうだ。姉さんにも持って行ってあげないと!」
アティナは食べ終わる前に、メティスの分もコーンフレークを作ると、地下室のほうに入っていった。
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