Nr.19 戦闘 ——ヴァイター——

 空は夕焼けに包まれて赤く染まっていた。レーダーに映る方向に目を凝らすと、複数の小さな物体が微かに光を反射したように見えた。

 あれが多分、こっちに向かっている敵の攻撃用ドローンだと思う。


 私はコクピットの中で、左右に浮かんだ半透明の球体を両手でしっかりと掴んで、この機体——ディソナンス——が銃を構えるイメージを浮かべた。


 ディソナンスは長い銃身の銃を構えて、引き金に指を掛けて引いた。


 ディソナンスが構えた銃から細長いレーザーが矢継ぎ早に繰り出され、敵ドローンに向かって飛んでいった。


 細かく連射されたレーダーはその全てがドローンに命中して、ドローンは爆発した。


「やったよ」


「さすがアリアさんですわ」

 通信で聞こえるフィーネの声も嬉しそう。

「それにしても、凄い威力の銃だね。レーザーなのに実弾並みの破壊力だよこれ。連射もできるし」


「新開発のパルスレーザーですわ。レーザーの光量を絞れば威力は落ちますが、スナイパーライフルと同等の飛距離を撃ち抜く事も可能ですわ」


「何そのヤバい武器……そっか、なら、そっちの方も試してみようか」


「丁度良い的がありますわね」


 私と架音かのんさんの乗るディソナンスは今、空中で複数のドローンに完全に囲まれている。

 今はまだ肉眼では見えない距離にいるけど、完全に囲まれるのは時間の問題だと思う。

 囲まれてから一斉に攻撃されたら、いくら強そうなこのロボでもタダでは済まなそうな気がする。


 なら、答えは一つ。

 敵ドローンの攻撃範囲外にいる今のうちに、倒しておく!


「アリアさん、遠隔でバルスライフルをスナイパーモードにしましたわ」


 正面のメインディスプレイに、超望遠レンズで捉えたスナイパースコープの映像が重ねて映し出された。

 これを使って、レーダーにはまだ遥か遠くに映っている敵ドローンの姿を狙えば良いのね。


 レーダーに映る敵ドローンの位置から、大体の場所を把握した私は、敵ドローンがいるであろう位置をイメージして、ディソナンスのスナイパースコープをその位置に向ける。

 いた!まだ遠くだけど、ドローンの姿を捉えた。私のスナイパーとしての勘は今、冴え渡ってる。


 ディソナンスのパルスレーザーが火を吹くと、発射されたレーザーは確実に敵ドローンを捉えた。


 続けて他のドローンに照準を向けて、間髪入れずにパルスレーザーを発射する。


 次々にドローンは破壊されていく。レーダーに映る点の数が次々に消滅していった。


「す……凄い……」


 後ろの補助席に座って戦況を見つめていた架音かのんさんが呟いた。


「えへへ、凄い?ねえ凄い?」


「凄いです、アリアさん……目に見えない遠くのドローンをあっという間に!かっこいいです」


「ありがと、架音かのんさん!」


 架音かのんさんは純粋に尊敬の眼差しを私に向けてくれて、嬉しくなってきた。


「さすがアリアさんですわ。イオの軍にもここまで素早く正確にスナイパーライフルを使いこなせる人はいないですわ」


「またまたー、おだてても何も出ないよフィーネ」


「アリアさん、これは本心ですわ。さ、今のうちにそのエリアを脱出して下さいですわ。このリブレット号の位置をレーダーに表示させていますから、そちらに向かって下さいな」


「うん、わかった」


 レーダーをみると、敵ドローンとは別の色で新たにアイコンが表示されている。これがリブレット号の位置。

 ちょっと遠いけど、周りに敵がいない今ならすぐに移動できると思う。


「よーし、じゃ、さっさとこの場所からおさらばしよっか」


 そう言った時に、レーダーに新たなアイコンが表示された。

 このすぐ近くだった。


「新手?このタイミングで?」


「急に現れましたわ……と言う事は空中ではなく……地上ですわ……それに、この位置は……」


「ベルカントから出てきたのね」


「そうみたいですわ……」


 今、私達の周りにいる敵は、今出てきたこの一体だけ。

 だったら、さっさと片付けてリブレット号の元に向かうしかない。


 私は敵の位置にパルスレーザーを撃った。

 スナイパースコープが正確に敵の位置を捉え、パズルレーザーが敵に向かって飛んで行く。

 命中——したと思っていたけど、レーザーは敵の直前、空中で弾けると、違う方向に飛んでいってしまった。


「な、何あれ……」


「対レーザー兵器用のシールドですわ……」

 フィーネの悔しそうな声が聞こえる。


 シールド……そんな物持ってるなんて、反則じゃない?

 それに、あの敵の姿は…… 全身が黒っぽい装甲で覆われていて、手足がついている。


 このディソナンスとよく似たロボだった。


「やれやれ……本当に手のかかる子達ですね……」


 ディソナンスの通信機から、男の声が聞こえてきた。


 この、聞き覚えのある声ら……


「プロデューサー……さん……あの機体に乗っているの……プロデューサーさんです……」


 架音かのんさんが震える声で呟いた。

 やっぱり、ベルカントから黒いロボに乗ってこの私達の前に現れたのは、プロデューサーだった。


「その通りです。全く、ドローン兵器を残らず破壊するとは……高かったのですよあれ。とは言え褒めてあげましょう。でも、それもここまでです。貴方方を逃しはしませんよ。この私、ヴァイターと新開発のヒュドラリウスがいる限りは……ね」


 ……あのプロデューサー、ヴァイターって名前だったんだ。

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