Nr.18 閃光II ——ディソナンス——

 私と架音かのんさんはロボに乗り込んだ。

 私は操縦席に座って、架音かのんさんは後ろの補助席に座ってもらう。


架音かのんさん、どうなるか分からないから、シートベルトちゃんとしててね」


「わ、分かりました」


 架音かのんさんは不安そうに補助席のシートベルトを締める。


 私もちゃんとシートベルトしとこう。なんかこのロボ、操縦席の計器とか明らかに最新式の軍事用だし、でもこんなデザインの軍事ロボ、見た事すらない。

 一体性能がどのくらいなのか、想像もつかない。


 操縦席の周囲には全天型のディスプレイが張り巡らされていて、ロボの周囲の視界が360度表示される様になっていて、操縦桿のある運転席にはさらに小型のデイズプレイが取り付けてあった。

 細かい情報はこの小型ディスプレイに表示されるみたい。


小型ディスプレイには大きな文字で〝ディソナンス〟と書かれている。


 ディソナンス——このロボの名前かな。

 やっぱり聞いた事が無い。

 その下には小さな字で、〝developed by デベロップバイ graziosoグラツィオーソ industryインダストリィ〟と書かれている。

 グラツィオーソ・インダストリィ……こっちは聞いた事がある。確か、イオの軍隊が使う軍事兵器の開発を一手に引き受けている、超巨大軍事企業だった気がする。


 フィーネって、もしかして……そこの子なの……


 操縦席の左右には、左右に丸い水晶の様な球体が浮かんでいる。これが操縦桿かな。


 私は右手で右の、左手で左の球体に触れてみた。


 すると、頭の中に一気にイメージが流れ込んできた。

 これは、このロボの視界……球体に触れた事によって私の視界とロボの視界が一体になったイメージがある。

 て事は、操縦も私がイメージすれば出来るのかな。


 試しに、立ち上がるイメージを浮かべてみた。

 すると、ズンっと大きな重低音を響かせながら、ロボが動き出した。


 実際の視界に映るディスプレイでも、景色が下に流れて行って、ロボは確かに立ち上がっている。

 イメージだけで、ちゃんと操縦できている。

 これなら、私にも操縦出来る。


「アリアさん、どうですか?」


 ディスプレイの一部にフィーネの顔が映し出された。

 リブレット号との通信が繋がっている。


「うん、フィーネ、何とか操縦できそうよ」

「良かったですわ。早速なのですが、レーダーを見て頂けます?」


 レーダー?

 操縦席の前に備え付けられた小型のデイズプレイの端に、円が描かれていて、中心に簡易化されたロボのアイコンある。

 これがレーダー。このアイコンはこの機体を表しているんだろう。

 そして周りにも中に小さな点が幾つか表示されていて、点は徐々にこのロボのアイコンに向かって集まってきていた。

 敵の機体か無人機かが、ここに向かって来ていると言う事らしい。


「フィーネ、このレーダーに映ってるの全部敵なの?」


「そうですわ。敵の無人攻撃用ドローン達が次々に飛び立ったのを確認しましたわ。アリアさん、迎撃しちゃって下さいですわ」


 迎撃って言っても……まだ操縦の仕方もよく分かってないのにどうやるの?


「アリアさん、その機体には特別な装備があるのですわ。背中の辺りをイメージしてみて頂けます?」


 背中?言われるままに背中の辺りを想像してみる……すると、ロボが動き出して、背中にあった何かを掴んで手前に持って来た。

 これは……ライフル……


「それですわ。その機体、ディソナンスは新開発の超長距離射程スナイパーライフルを装備していますの」


「そんな物、何処で手に入れて来たの」


「うちの社で開発中の機体を少しお借りして来ただけですわ。それに、その超長距離射程スナイパーライフル、開発に成功したは良いのですが、あまりに高性能すぎてイオの軍でも扱える兵がいなくて性能テストに困っていた所なんですの。でもアリアさんでしたら、使いこなせると思いますわ」


「ええっ……いやプロの兵士が使えないようなもの私だって……」


「大丈夫ですわ。これまでアリアさんを側でみていたわたくしが保証しますわ……アリアさんの戦闘データをお土産に持って帰れば、、お父様に黙って勝手に持ち出した事も許して貰えると思います。なので、思いっきり派手にやってしまって下さいねアリアさん」


「そんな勝手に……でも、どのみちやるしかないのは確かね」


「できれば、あまり壊さないで頂けると尚ありがたいですが……」


「それは保証出来ないよ」


「ですわね……まあそこはわたくしがなんとかしますわ。先ずは、空を飛ぶイメージをして頂けます?」


 空を飛ぶイメージね……どんな感じだろう。夢の中とかで背中から羽が生えて天使のように飛び回る感じ……かな。


 私のイメージに呼応する様にロボが動き出して、いきなり上から押さえつけられる様な空気の圧が掛かった。

 と思う間もなく、操縦席のディスプレイに映る景色視界があっという間に下に流れて行って、辺り一面空と雲だけの景色に変わった。


「空飛べたみたい」


「さすがアリアさんですわ」


 空はこの世のものとは思えないほどの真っ赤に染まっていた。夕焼けの赤。


 いつの間にか、日が暮れかけていた。

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