Nr.15 間奏 —インテルメッツォ—
僕は今、温泉に来ている。
新宿から西へ西へと伸びている、東京の大動脈であり、都心からマイホームに帰る人たちの通勤の足となっている線路——京王線。
その鉄道、京王線高尾山の終点であり、年間登山者数が世界一の低山、高尾山の麓に位置する駅がある。
その名は高尾山口駅。
高尾山に登る人達にとってこの駅は、山へと通じる入り口であり、昼間には高尾山に登る人たちが多く押しかけるものの、日曜の夜九時も過ぎれば、ここは本当に東京の一角なのだろうかと思わず疑ってしまうほどに
ではなぜ僕は今、そんな所に来ているのかと言うと、この駅には隣接する場所に温泉があるのだ。
温泉、それは高尾山に登った人達がトレッキングの疲れを癒す、或いは地元の人達が湯船に浸かり日々の疲れを癒す為に訪れる安らぎの泉。
天然温泉と言っても、さすが駅に隣接している施設なだけあって、流行りのスーパー銭湯みたいに施設は充実しており、タオルも追加料金で借りれるので、手ぶらで行っても問題はない。
と言うわけで僕は今、その温泉に浸かりに来ている。
そうそう、自己紹介がまだだったね。
僕の名前は
僕は今、まさにこの露天風呂に浸かっている所だ。
日曜の夜は登山口には驚くほどに
露天の温泉は、高尾山が望める三十八度の人工炭酸の温泉、そして入ると肌がぬるぬるして一気に健康になりそうなアルカリ性四十度と四十二度の天然露天風呂がある。
僕は夜の高尾山を望みながら露天風呂の湯に浸かっているのだが、ちょうど僕の隣にも、かなりの高齢と思われる男性が一人、湯船に浸かっていた。
男は、目線は山の方を向いたまま、僕に話しかけて来た。
「あんたが直接来るなんて珍しい事もあるもんだな」
僕も、同じ様に目線は山を向いたまま、男に応える。
「ええ。まず報告をさせて頂きます。探していた僕の妹の居場所が見つかりました」
「ほう、それは良かったな。こちらは必要無かったか。では、もう引き上げても良いな」
「それが……やはり貴方のお力が必要な事態になったのです」
男の目がすっと細くなる。
「……と言うと?」
「妹がいたのはやはりあの施設、ベルカントでした。僕が頼んで潜入させた工作員が、妹の居場所を発見しました。ですが、その直後に彼女との連絡がつかなくなってしまったのです」
「む、羊狩りがラムになったか……」
「何ですかその例えは」
「冗談だよ。笑ってくれ」
「天狗でも冗談を言うんですね」
「なに、人間の真似をしてみただけだ……人間の冗談はやはり難しい物だな」
そう、男は登山客を装ってこの温泉にやって来ているが、実態は高尾山の天狗だ。
僕はアリアさんに頼む前に、彼ら天狗にも妹の調査を依頼していた。
彼の仲間の密偵であるくの一は、宇宙に旅立ち、上手くベルカントに潜り込んでくれた。
が、そこから先が上手く行かなかった。
だから、今度はアリアさんにも依頼する事になったのだ。
「貴方の力を再度お借りしたい。まだ密偵はベルカントに潜り込んでいるのでしょう。私の仲間の位置を教えます。助けて頂けないでしょうか」
天狗はかっかっかと豪快に笑い出した。
「良いのか?天狗の貸しは高くつくぞ」
「構いません。僕が貴方に会ったのは、何かの意味があるのだとずっと思っていました。今がその時だと分かったんです」
「良いだろう。我が放った草は、まだベルカント内部にいる。お主の仲間の位置を知らせて、助ける様に伝達してやろう」
「……すいません、助かります」
「まあ、お主は既に知っておるだろうが、天狗の伝令は木星であろうと、あっという間に伝わるのだ。すぐに隠れ寺に向かい、伝令の鐘を
「わかっています。後はこちらで何とかしてみせます」
「妹殿、無事に救出されると良いな……」
「はい……
「では、急ぎ参る」
天狗は周りの人が見ていない隙を狙って、背中から翼を生やすと、あっという間に空へと飛び立った。
これで、僕が出来る手は全て打ちました。
アリアさん、後は頼みました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます