Nr.11 お父様—グラーべ・ディ・インフレッタ—

「アリアさん、本当に大丈夫でしょうか……」


 わたくしは今、リブレット号のコックピットで待機して、アリアさんの連絡を待つことしかできません。


 リブレット号はベルカントから少し離れた場所で空に浮かんだまま、夜想ノクターンモードにして浮遊ホバリングさせていますの。


 ここも一応はゼフィローソ一家が支配するスッスランドの市内には入ってますが、街のはずれなので夜想ノクターンモードならばまず気取られる事はありませんし、これ以上離れるとアリアさんの通信機からの電波をキャッチできなくなるおそれがありますの。


 それにアリアさんの連絡が来たらすぐに駆けつけられるよう、少しでも近くにいておきたいのですわ。


 リブレット号のモニターには地図が表示されていますい。

 そして、アリアさんに渡した通信機から放たれている現在位置を知らせる印が地図上に示されてますわ。


 アリアさん、無事にレベルカントに潜入する事ができたみたいですわね。

 あとは依頼の架音かのんさんを見つける事ができれば良いのですが……


 なんて考え事をしていたら、モニターには別の文字が表示されていますわ。

 これはわたくしの母星からの通信を示すコールですわ。

 しかも相手はお父様ですわね……こんな時に、一体何の用事なのでしょう。


 このまま通信しないで放っておいても良いのですが、そうすると帰ってから色々言われそうで厄介ですわね……一応、コールは取って早めに通信を切り上げる事にしましょう。


 わたくしが通信のボタンを押してスピーカーモードにすると、リブレット号のディスプレイ一面にお父様のお顔が映し出されました。


 カールが入ったロングの真っ白な髪に白い顎髭がたっぷりと蓄えられたその姿は間違いなくお父様、グラーべ・ディ・インフレッタですわ。


「フィーネ、久しいな」


「お久しぶりですわお父様。で、一体何の用なのです?わたくしは今忙しいので、急ぎでないのなら、後にして頂けると助かるのですが……」


 皺の多いそのお顔は不機嫌そうに膨れていてさらに皺が増えていますわね。


「フィーネ、我が娘よ」


「なんですの?改まって」


「我がインフレッタ家は木星の第一衛生イオの中でも指折りの財閥だ。そうだな」


「はい?……ええ、そうですが今更何を?」

「そして、インフレッタ家は昔からイオの王族に懇意にして頂いている。故に軍の兵器開発を、我がインフレッタ家が一手に任されているのだ」


「ですわね。お父様の経営するグラツィオーソ・インダストリィはイオの軍需産業の要ですわ」


 お父様はそこではぁと一つため息を吐きましたわ。


「我が娘フィーネにも、いずれはこの会社を継いでもらおうと、幼い頃からうちの社の科学者達を呼んで科学を教えてこんだものだ」

「ええ。おかげで色々と楽しく学ばせて頂きましたわ」


「それが間違いだったのかもしれんな……」

「何故ですの?」


「フィーネ、おぬしの成長は凄まじかった。わしの想像を遥かに超えて知識を飲み込んで行ったお前は、あっという間にうちの社のどの科学者よりも賢くなってしまった」


「そんな、おだてても何も出ませんわ」


「結果として、10代でおぬしは我が社、グラツィオーソ・インダストリィの兵器開発部門の最高責任者の権限を与える事になった」


「照れますわ……わたくしはただ、たまに開発部に出入りして試作品を見せてもらったりして、遊んでいるだけですわ」


「だが、おぬしのその知識で今まで数々の新技術を生み出して来たのも事実。そこは素直に感謝しよう」


 さっきから、お父様は話が回りくどいですわ。一体、何を仰りたいのか分かりかねますわ。


「だからこそ、フィーネには我が社の最高機密である試作兵器を開発している部署に自由に出入りできる様に取り計らっておるのだ」

「そうですわね」


「所でフィーネ、おぬし、最近また開発部に立ち寄ったそうだな」


「ええ、行きましたわ。現在開発中の最新兵器を見せてもらいましたわ」


「そうだ。我が社では今、近々軍にお披露目する事になっている、最新の人型決戦兵器ロボットを極秘に開発している最中だ」


「あー確かにありましたわね。なかなかよくできていますわ」


「フィーネ、その兵器がいま、無くなっているのだが……心当たりがあるのではないか?」


 ようやく、お父様の言いたい事がやっと飲み込めましたわ。



「ああ、その事ですの。その人型決戦兵器ロボットでしたら、今ここにありますわ」


「は?今なんと?」


「ですから、リブレット号に積み込んでありますわ。少しお借りしたいと思いまして」


「待て、それが何か分かっているのか!軍に納品する最新鋭の兵器なのだぞ!玩具オモチャでは無いのだぞ!」


「そんな事、分かっていますわ。ちょっと性能試験を実地でしようかなと思っただけですわ。ちゃんと後でお返ししますから、お父様は心配なさらないで頂けますか」


「いやいやいや!お前はその性能が分かっているのか!それはそんじょそこらの兵器とは訳が違うのだぞ!その威力は……」


 ああもうめんどうですわ。お父様のお話は長くなりがちなので、わたくしはお父様との通信をさっさと切ってしまいましたわ。


  再びモニターに目を向けると、いつの間にかアリアさんの位置が変わっていましたわ。

 アリアさん、どこかの部屋の中にいるみたいですわね。

 そして、通信機からモールス信号が届いていましたわ。

 アリアさん、通信機は胸に隠したまま、指で通信機を叩いて暗号を伝えて来ているのですわ。


 ……どうやら、今いる部屋の扉を開いて欲しいみたいですわ。


 では……わたくしはキーボードをばぱっと操作して、アリアさんのいるベルカントのセキュリティシステムにハッキングを試みましたわ。


 アリアさんのいる部屋の扉を開くよう、ささっとハッキングしたデータを送り込むと、どうやらアリアさんのいる部屋の扉を開く事に成功したみたいですわ。


 アリアさん、あとはお願いしますわ。温泉のために、架音かのんさんを見つけてくださいですわ。

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