Nr.8 情報—ベルカント—

 宇宙賞金稼ぎコズミックハンターをやっているお陰で裏社会の事情には少し詳しくなったのだけど、ゼフィローソ一家は最近たまに聞くようになってきた。

 

「最近、俺たちカストラード一家のシマをゼフィローソ一家の奴らが荒らしてくれてな。奴らは最近、”ベルカント”と言う名の巨大な娼館を建設したのさ。表向きはショーパプだが、俺の部下が聞いた情報によると、実体は娼館だと言われている。しかも、その娼館で働かせる為に奴らは最近宇宙海賊の真似事を初めて、人攫いをやっているらしい。ショーパブで宇宙警察ポリの目をかわしながら、実体は娼館で攫って来た女性達を働かせているという噂だ。木星近辺で宇宙船ごと突然行方不明になったってなら、奴らに攫われた可能性は高いな。アリア、行方不明になった嬢ちゃんの乗っていた船の写真か何かはあるか?」


「あ、うん。あるよ」


 私がレガートから貰っていた宇宙船の写真をボスに渡すと、ボスは机に設置してある通信機のスイッチを入れ、部下に何かを指示した。

 ほどなく、部下からコールバックがありボスは頷いた。

 

「どうやら、ビンゴのようだ。俺の部下が入り込んでいる廃船工場に最近持ち込まれた船にこの写真にそっくりの船があるようだ。登録ナンバーは違うが、おそらく奴らによって違法に付け変えられているんだろう」


「てことは……」


「ああ。しかも船を持って来たのは、奴らゼフィローソ一家の手下だったそうだ。間違いねえ。嬢ちゃんはベルカントにいる」


「そっか。ありがとボス。決まりだね。じゃあベルカントに……」


「まてアリア」


「ん?何?」


「言っただろう、事は厄介だってな。嬢ちゃんがベルカントにいるとなると、簡単にはいかねえぞ」


「え……」


「ベルカントは表向きは普通のショーパブだ。宇宙警察ポリですら簡単に捜索できないように上手く偽装してる場所だ。正面から言っても素直に入れてはくれねえぞ」


「そうなんだ」


「しかも、ベルカントはかなりの大きさだ。忍び込んだとしても、簡単にはみつけられないだろう。それに、悔しいが奴らの組織は俺たちよりも巨大だ。奴らはベルカントのある都市、スッスランドの一帯を完全に牛耳っている。ベルカントの周辺どころか、街中に奴らの部下が溢れてやがる状況だ。近づくだけでも一苦労だぞ」


「まじ……宇宙警察でも簡単には入れないし、忍び込むのも無理だなんて……せっかく場所がわかったっていうのに……どうすればいいの……」


 ボスの話を聞いて頭を抱える私を見て、ボスはニヤリと笑う。

 

「アリア。なに、俺たちも今まで何もせずに手をこまねいていただけじゃあねえ。安心しな」


「なにか手があるの?」


「ああ。ベルカントは巨大な娼館だ。攫ってきた女性だけでは手が足りないらしく、奴らは裏社会で娼婦の募集をかけているのさ。もちろん、俺たちカストラード一家の目が光っている場所では流石にやってないがな。だから俺たちは、時間をかけて密かに奴らの目が届かないダミー会社を立ち上げた。そうして奴らと接触する所まで漕ぎ着けているのさ。あとは、娼婦に変装した部下を送り込むだけだ」


「じゃあ!」


 ボスは今度は眉を顰めて困った顔になる。

 

「だが、そこから先がなかなか上手くいかなくてな。危険な場所に送り込む為には、それなりに身を守れる腕の立つ者を送り込みたい所なんだが、俺の部下は奴らにも警戒されているから、奴らがまだ知らない者を

でなければいけないのさ。それがなかなか上手くいかないのさ」


「わかった。じゃあその役は私がやるね」


「だめだ。お前には危険すぎる」


「だけど、誰かが行かなきゃ。攫われた架音かのんさんがどうなるかわからない以上、待ってる暇はないよ」


「そうだが……しかし……」


「大丈夫。私だって昔よりずっと強くなったんだから」


「だが……」


 なおも渋るボスに、私は精一杯の笑顔を見せる。

 

「その役、私に任せてよ。大丈夫だって。架音かのんさんを見つけてすぐ逃げてくるから。それに、他に手はないでしょ」


「むう……しかたない。ベルカントの近くには俺の部下は行くことができない。お前一人で身を守らなくちゃいけない。危なくなったらすぐ逃げるんだぞ。約束だ、たとえ嬢ちゃんが見つからなくても、危なくなる前に逃げるんだ」


「わかった。ボス。約束する」


 これで、架音かのんさんを助ける手筈は整った……と思ったけど……

 

「だが、それだけじゃねえんだ」


「まだ何かあるの?」


「言っただろう、奴らはベルカントのある都市、スッスランドの一帯を完全に牛耳っているってな。嬢ちゃんを無事に見つけても、娼館から脱出して奴らの手下に見つからないように二人で街を出るのはほぼ不可能だ……」


 なんなの、結局無理だってことなの……ここまで来て……居場所までわかったってのに……

 

「だからな、地球人の嬢ちゃんを助けに行くのは諦めて、嬢ちゃんの事は宇宙警察ポリに任せておく事だ」


 ボスは目を細める。

 

「いや、宇宙警察に任せてたらいつになるかわからないんでしょ。それじゃ、架音かのんさんはどうなるの?」


「諦めるんだ。世の中にはどうにもならない事だってあるって事だ」


「くっ……」


 残念だけど、今回の依頼は完全遂行は諦めるしかないのかな。

 

 ……と思った矢先だった。

 それまで私の後ろで黙って話を聞いていたフィーネが、徐に前に出てきた。

 

「いえ、それなら……何とかなりそうですわ」


「フィーネ……ほんと?」


「ええ。要は脱出できればよいのですわね」


「そうだけど、街は奴らの手下でいっぱいだって」


「こんな時の為にひそかに開発していた秘密兵器がありますわ……それを使いますわ」


「ひ、秘密兵器?」


「ええ。なんとしても、温泉、いきますわよ」


 フィーネは自信満々で胸を張っている。大丈夫なのかな。

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