Nr.5 架音—カノン—
「依頼とは……僕の妹、
依頼人の男の名前は
24歳の若い年齢で、親から引き継いだ実家の楽器屋〝五線譜堂〟を経験している男だった。
「妹さん?」
「ええ、妹は今、行方不明になっています。それであなた方に探して欲しいのです」
「な、なんで地球の人探しを私たちに……」
「理由を説明します。妹は学業の傍ら、うちの楽器屋〝五線譜堂〟の公式イメージキャラクター〝カノン〟という名のVTuberとして、生配信をするのが趣味でした」
「ぶい……ちゅーばー?」
「本人の姿は見せずに、二次元のキャラクターになり切って声で演じる配信者の事です」
「アリアさん、あれですわ、
「あ、
フィーネが例えを出してくれたから、わかった。
「そうです。そんな感じのを想像して頂ければ、おおよそは合っていると思います」
「そのキャラクターが何か?」
「妹はある日、配信が終わった後に配信を切り忘れて、そのままマイクの前で歌っていたのです。たまたま、その配信を地球の配信を見るのが趣味なマニアックな趣味を持った好事家の宇宙人が聞いていた」
「確かにマニアックね……」
外宇宙の電波を拾って密かに聞いて楽しむ無線愛好家は多いと聞くから、マニアックだけどそれなりに数はいるのかも。
「その配信を聞いていたのは木星の方でした。その方は妹の歌をたいそう気に入ったらしく、妹のVTuberが歌う映像を録画して、宇宙ネットワーク
「あ、それわたくしも聞いた事あるかもしれませんわ……カノンの歌ですわね」
「フィーネも知ってるんだ」
「ええ。一時期ネットで話題になっていましたわ。聞いたことがない宇宙の外れにある星で歌うその歌がとても木星人の心に響く不思議な歌声で、この人は一体誰なのか……と。そうですか、その子が妹さんだったのですね」
「そうです。その後、エウロパから事務所のプロデューサーと名乗る方が妹を木製のアイドルとして売り出したいと、宇宙船に乗ってスカウトに来たのです」
「あまり他の星と交流は無いと伺っていますが」
「ええ。ですから最初は疑いました。もちろん、地球以外も人類がいるという事は知っています。ですが、外星人とコンタクトできるのは政府の高官くらいです。われわれ一般人が実際に会う事はありませんからね」
「そうなんだ」
「ええ。地球と木星では技術レベルが違いすぎるから、何処かの国が出し抜かないように、コンタクトできる人は国際条約で厳格に決められているんです。妹には、エウロパのプロデューサーさんから直々にコンタクトの要請があって、外交特権で半ば無理言って会いに来てくれたようです」
「それで、妹さんは木星に行くことになったの?」
「ええ、そうです。木星でアイドルとしてデビューする為に、地球を旅立ちました」
「だからお兄さんは
「そういう事です。本来なら地球から他の星にコンタクトを取る事はできませんが、僕は妹と連絡を取れるように、政府施設の
「それでギルドに依頼ができたのね。妹さんが行方不明になったのは?」
「2週間ほど前からの様です。事務所から連絡があったのが1週間前。妹はまだ、デビューしたといっても研修生の扱いで、アイドル事務所の寮で他のアイドル候補生の人たちと一緒に生活していました」
「それなのにどうして……」
「その日は他のアイドル候補生の人たちと別行動で、木星で個人ヴォーカルトレーニングの日でした。練習を終えて、宇宙ステーションにある寮に帰る予定でしたが妹の乗った宇宙船は、寮に戻る事はなく、宇宙船の乗組員ごと連絡が途絶えたのです」
「なるほどね……宇宙船が拉致されたって訳ね」
「そのようです。しかもその日はマネージャーも別行動で完全に1人だった為、どうにも探し様が無いのです。そして未だに連絡が無いままです。だから、
「わかりました……でも、大丈夫でしょうかその……」
「ああ、支払いの件ですね」
「はい」
「タクト……でしたか。確かに、僕は
「ですよねー電子決済でも良いですけど、使えなさそうですね」
木星圏ではタクトと言う通過が共通して使う事ができる。と言っても木星とイオ、 エウロパとその他小規模の衛星で使えるだけで、ガニメデとカリストでは使えない。
あと他の星……例えば土星でも使えないのだ。
と言っても最近ではニコニコ現金払いから、宇宙共通の電子決済に変わりつつあるのだけれど、ネットワークがまだ未発達の地球にまでは浸透していないのだ。
「……ですが、安心して下さい。地球の人はまだ宇宙には簡単に行けません。つまり、妹は政府のバックアップによって旅立っているのです。だから今回は国際問題……と言うより、星際問題となるのです。あなた方への報酬は、地球政府の方から支払って貰える手筈になってますよ」
「それは助かります」
さすがは未開の惑星。このエウロパで人が1人行方不明になったくらいでは誰も見向きもしないけど、地球から星を背負ってフロンティアに旅立つ第一号の旅人がいきなり消えるのは地球としても避けたいのかもしれない。地球の政府さんありがとう」
「まあ、何分田舎の惑星ですので、通貨レートはかなり悪い。あなた方にとってはあまり大きな金額ではないかもしれません」
……し、しまった。それは問題かも。
「う、まじ……」
「ですが、こちらからはあなた方に別の報酬を用意しています。そちらはきっと気に入って頂けると思いますよ」
別の報酬?
なんだろう、全く予想がつかないんだけど……
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