Nr.4 依頼ーオブリガートー

「まさかここに来るまでの間に、宇宙海賊を締め上げてくるとは……お前ら無茶苦茶だな……」


 電磁縄レールロープでぐるぐる巻きにされて身動きがとれない海賊を見ると、レガートは苦笑気味に言った。


 フィーネがカニ型宇宙船を完膚なきまでに大破させた後、私が宇宙船に乗り込んでこの宇宙海賊アービレを締め上げた。


 そしてそのまま当初の目的であったこの木星の軌道上に浮かぶ宇宙ステーション・オルフェオに到着し、宇宙賞金稼ぎコズミックハンターギルドにやって来てギルドの窓口であるレガートに引き渡したってわけ。


「しっかし宇宙海賊さん……」


「アービレだ」


「そうかい、宇宙海賊のアービレさんよ、あんたも災難だったな。よりによって宇宙女猫コズミック・ミーチェを相手にするなんてな」


 レガートが嘲笑気味にそう言うと、宇宙海賊の顔色が一変した。


「な……宇宙女猫コズミック・ミーチェだと……お前ら……あの……」


「あれ、私たちの事しってくれてるんだ」


 どうやら私たちも宇宙賞金稼ぎコズミックハンターとしてそこそこ有名になってきたみたい。今まで頑張って賞金稼ぎを捕まえて来た甲斐があったかもしれない。


「知ってるも何も……宇宙海賊の間じゃ、知らない者はいないくらい話題になっているんだぞ」


「へえ、うれしいね」


「わたくしたち、有名人ですわね」


 私とフィーネは顔を見合わせてにっこりと微笑む。


「ああ、銀河最恐にして最凶、近寄るだけでいちゃもんをつけられ、肩が触れた日には有り金を毟り取られ、一度目をつけられたら孫の代まで呪い殺され、破壊された宇宙船は数知れず、宇宙女猫コズミック・ミーチェのねぐらの前には、潰された数々の宇宙海賊組織のボスの首を雨ざらしにして並べてある……とな」


「なッ……」


「え……?」


宇宙女猫コズミック・ミーチェにだけは、絶対に手を出してはいけない……そう噂になっている……」


「いやいやいや……私たちそんな事してないから!」


「家の前に生首飾るとか、どこの蛮族なのですかっ!ありえないですわ!」


「……どうやら、俺は運がいいらしい。宇宙女猫コズミック・ミーチェに手を出して、まだ五体満足で生きているんだからな。もしかしたら宇宙女猫コズミック・ミーチェと出会って生きているのは俺だけなのかもしれない……」


「まって、そんな事してないから!捕まえた相手を呪ったりもしてないから!」


「噂がおかしな方に広がり過ぎですわっ!ちょっとアービレさん、ちゃんと仲間の方たちに訂正しておいてくださらない?」


「なんだ……そうなのか……まあ、宇宙海賊はホラを吹くのが好きな連中だからな、酒のつまみに面白おかしく色々話を盛っているうちに、尾鰭がついていったのかもしれんな」


「勘弁してよー。ちょっとレガート、笑っている場合じゃないでしょ」


「……くくっ……いや、すまん。」


 レガートは笑いを堪えきれないという感じで、隅で腹を抱えて丸くなっている。ギルドの職員なんだから、笑ってないでそういう話はちゃんと訂正しておいてよ。



 その後一息ついて、レガートは木星からやって来た宇宙警察の人に海賊を引き渡して、ようやくレガートは本来の目的である依頼の話に入った。


「待たせたな。じゃあ、早速本題にはいるとしよう」


 一変して、レガートが真顔になり翠眼グリーンの瞳が鋭く光る。

 元カリストの軍人だけあって、真顔だとそれなりに迫力がある。


「今回、二人にこのギルドまで来てもらったのは他でもない、君たちを指名の依頼が入ってきたからなんだ」


「私たちを指名?」


 さっきの宇宙海賊みたいにまた変な噂が流れてるとかじゃなければいいけど。


「ああ。正確には、ギルドに依頼があったんだが、依頼内容を考えて俺が君たちを推薦しておいた。そして、依頼人からぜひ君たち二人にお願いしたいとなった案件だ」


 なるほど、レガートが推薦してくれたわけね。


 レガートは、カリストで一人で生きていた私を一人前のスナイパーに育てれくれた、いわば育ての親のような存在だ。

 フィーネを紹介して、私たちがユニットを組む様に導いたのも彼だし、人を見る目に関しては、ギルド随一だと思う。


 そのレガートが私たちを推してくれたというのなら、単に親心で簡単な依頼を融通してくれたとかじゃなくて、掛け値なしに私たちの実力を認めてくれたって事だし、恐らく本当に、私たちじゃなきゃ出来ない仕事なんだと思う。


「で、依頼って何?」


「ああ、人探しだ」


「ひ……人探し?」


 あれ、やっぱり今のは違ったかも、単に親心で簡単な依頼を回してくれただけなのかな……。


「ああ。詳しい話は、依頼人に直接聞いてもらった方がいいだろう。今依頼人を呼び出しているから、もうすぐ通信が繋がるはずだ」


「通信?」


「そうだ。依頼人から特別にSαCSSさっくす回線で連絡を取れる様に手配してもらったから。リアルタイムで通話できるぞ」


「え、依頼人て、そんなに遠い場所の人なの?」


「ああ。今回の依頼人がいるのは、地球だ」


「チキュー……?」


「ちきゅーって……どこですの?」


「二人が知らないのも無理はないだろうな。だが、この銀河系にある惑星なんだぜ」


「この銀河系に人が住んでいる惑星なんて、沢山ありますわ」


「でも、聞いた事ないよね、チキューって」


「ああ。なんせ、星の存在は前から知られていたんだが、人類が生息しているってわかったのはつい最近の事だからな」


「この宇宙にまだ未開の星があるなんて……それも銀河に」


「しかも地球の人類は、我々のような木星圏の人類と同じ姿をしているんだぜ」


「初めて知りましたわ……」


「存在が確認できたばかりで、まだ宇宙政府に登録もされていない、未開の惑星に俺たちと同じ人類が生息しているって……不思議だな。案外、祖先のルーツは同じなのかもしれないな」


SαCSSさっくす回線があるって事は、わたくしたちと同じ様に科学も進歩しているのでしょうか?」


「いや、科学レベルはそれほどでもないんだなこれが。木星で言えば、産業革命前の科学しか持っていない。ネットもinternetって言うローカルな通信手段しかない。地球には、フルダイブできるネット環境もないんだ」


「あら、ではどうして……」


「木星政府からの技術支援だ。発見されて以降、木星は地球とコンタクトをとり続けていて、今では地球でも政府高官レベルではSαCSSさっくす回線が使えるらしい。今回の依頼人も、そう言うわけでそれなりに地球では要職にある人物だ」


「そんな人が、私たちに一体なんの依頼なの?」


「ま、それは依頼人が直接話してくれるさ。お、ちょうど通信が繋がったな」


 レガートが言うか言わないかの間でギルドの壁に備え付けられた大型ディスプレイが輝き、一人の人物が映し出された……今回の依頼人だろう。

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