Nr.3 聖譚盾ーオラトリオシールドー
レガートのいる
エウロパの宇宙港を出たリブレット号は順調に航行していた……突然、巨大な宇宙船に行手を阻まれるまでは。
「カニ?」
「カニ……ですわね……」
その真っ赤な宇宙船はリブレット号より何倍も大きく、左右に巨大なカニバサミのようなアームが装着されていて、どうみても巨大なカニだった。
突然、軌道を塞ぐようにワープしてきたその宇宙船によって、慌ててリブレット号のブレーキをかけて停止させるフィーネ。
「危ないですわね!何なんですかもう!」
行手を塞ぐように現れた宇宙船は私の知らないタイプだ。
この何もない宙域にわざわざワープしてきた事を考えると、私達に用があると考えるのが普通だ。
「フィーネ気をつけて!何者かわからないけど、何かしてくるかも」
「そうですわね……」
リブレット号のディスプレイに、目の前の宇宙船からの通信を示すマークが現れた。
「通信?」
「繋ぎますわ」
フィーネはパネルを操作して、前方の宇宙船との通信回線をオンにした。
リブレット号のディスプレイの一部に前方の宇宙船の内部と思われる映像が映される。
宇宙船の中には、ゴツい見た目の大柄な男が操舵席に座っている。知らない顔だ。
「誰ですの?」
フィーネの問いに、ディスプレイの男はニヤリと口の端を歪める。
「ははは、俺が誰かだって……?知らないとは不憫な奴らだ。教えてやろう……俺の名はアービレ。宇宙海賊だ」
宇宙海賊……自分気ままに星を飛び回り、手頃な宇宙船を襲っては略奪を繰り返す宇宙のごろつき達だ。
元軍人だったり船乗りが職にあぶれて海賊になったり、組織だって行動する野党だったり、ガニメデの帝国政府が密かに裏で糸を引いている危険な奴らまで、実態は様々だけど、共通して言えるのはどいつもロクな奴じゃない。
伝説の義賊、宇宙海賊キャプテン・リッツァのような正義の宇宙海賊なんて、物語の中だけで現実にはいないんだ。
「宇宙海賊……どこの組織なの?」
私は相手の素性を調べるために、相手のペースに乗ってみた。
スラム育ちの私は、悪党に少し顔が効くから、間違って知り合いの組織の手下をいじめたりしないためだ。
「どこの……?知るか、俺は孤高の一匹狼だ!」
「あっ……そう」
察した。
「ふふふ、この宙域は木星の定期航路が多いと聞いて密かに張り込んでいたんだが、そうしたらお前らがいい感じに通りがかってくれたんでな、悪いがその宇宙船を頂くぜ!」
カニ型の宇宙船は、両手のカニバサミ型のアームを大きく振り上げて威嚇するような姿を見せる。
「だってさ……知り合いじゃないから、好きにしていいよ」
肩をすくめてフィーネを見る。
「わたくしたち随分と舐められたものですわね」
フィーネもやる気なのか腕を捲っている。
「ほお、お嬢さん達で、宇宙海賊であるこの俺に楯突くつもりなのか……じゃあ、お仕置きをしないとな……覚悟しておくんだな!」
男はそう言って通信を切った。
何か仕掛けて来る気だ。
「来るよ!」
「任せてですわ」
今の所、カニ型宇宙船の目立った装備は両手のカニバサミだけだけど、宇宙海賊を名乗るくらいだから、他にも隠し玉があるかもしれない。用心するに越したことはない。
思った通り、カニ宇宙船の船体下腹部がぱっくりと開いて、中から船体の半分以上はあろう大きさの砲台が迫り出してきた。
「何あれ?」
「あんなもの船内に今まで収納して隠していたのですわね……」
カニ型宇宙船の中から砲台が完全に姿を現すと、砲身の中が淡く光り始めた。
と同時にさっき切ったばかりの通信が再び再開される。
「わはははは、どうだお前達、これをみて腰を抜かしただろう。我が船の必殺兵器、波動カノンだ。エネルギー充填が終わるまでに謝って船を明け渡すなら、許してやらん事も……」
「えーとですね……そんなことをおっしゃる暇があるなら、さっさと撃てば良いですわ!」
「な……何だと?」
「まあ、その程度の兵器でわたくしたちに勝てると本気で思っているのならば……ですが」
カニ航船の必殺兵器に全く同じる事がもなく、フィーネが強気で食い気味に反論してきた事に若干の怯みを見せる海賊……だったけど、すぐに気を取り直して、再び不敵な笑みを浮かべる。
「ふん、強気でいられるのも今のうちだぞ、若い女だから手加減してやろうと思ったが、こうなったら容赦はせん。波動カノンを思う存分喰らうがいい。エネルギー充填80パーセント……」
「……そのセリフはそっくりお返ししますわ。わたくしたちも容赦はいたしませんわ」
「はははは、笑止!武装もないそんな小型の船で何が出来ると言うのか!覚悟するがいい!……エネルギー充填120パーセント!発射!」
カニ宇宙船の波動カノンがやたら明るく光り、その直後こちらに向かってレーザー砲が発射された。
……フィーネ、思いっきり強気で相手を挑発してたけど、本当に大丈夫かな?
でもフィーネは強気の笑みを見せたまま、素早い手つきでパネルを操作する。
「今ですわ!モードチェンジ!|聖譚盾〈オラトリオシールド〉モード!」
フィーネがそう叫んでボタンを押すと、リブレット号のディスプレイには『モード*オラトリオシールド』の文字が現れた。
何このモード、私知らないんだけど……
直後、リブレット号の船体は青く輝く透明な光りの膜に包まれて、カニ宇宙船から放たれたレーザーが当たるとレーザーは四方八方に拡散して消えた。
「なっ!波動カノンを防いだだと!木星宇宙軍の戦闘機ですら沈められるはずのレーザーだぞ!バカな!」
「ふふふふ、だから言ったではないですか海賊さん……今度はこちらから行きますわよ」
思いっきり怯んだ海賊に、フィーネはどや顔で迫る。
「モードチェンジ!
今度はリブレット号のディスプレイに、『モード*レクイエム』と現れ、リブレット号が音を立てて変形を始めた。
船内から最新の武装が現れ、あっという間に最新鋭の戦闘機に変形する。
「な……何だこれは……」
「さ、覚悟なさい、海賊さんっ」
フィーネは不敵に笑いながら、ボタンを押した。
リブレット号から大量のミサイルとレーザーがカニ宇宙船に向けて発射された。
そして、勝負は一瞬で終わりを迎えた……フィーネ、恐ろしい子……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます