Nr.2 宇宙女猫ーコズミック・ミーチェー
「アリアさん、いつまで寝てるんですの?」
フィーネに無理やり布団を剥がされて、仕方なく私は眠い目を擦りながらベッドから半身を起こした。
「んー、そうだっけ……まだ夜だよもう少し寝させて」
「なに言ってらっしゃるの、もう外はしっかり日が登ってるのですわ」
私とフィーネはコンビを組む様になってから、色々あってこのエウロパ最大の都市ストルメントにある高層マンションで一緒に住み始めた。
「はいはい……今作るから待って……」
「手早くお願いしますわ。わたくしもうおなかぺこぺこですっ」
そんな事言ってるくらいなら自分で作った方が早いのでは……と思うんだけど、フィーネと私は家事を交代でやるって決めたから、ここで文句をいう訳にはいかない。
私はパンをトースターに突っ込んで、その間にフライパンを取り出して油を引いたらベーコンと卵を入れて蓋をしてキッチンタイマーをセットする。
皿に適当にカット野菜を盛り付けてコップにミルクを注ぎ、トースターから焼き上がったパンを取り出してお皿に乗せ、フライパンから焼いたベーコンエッグも乗せて朝食の出来上がり。
「はいできたよ」
「はわわ……いつ見ても凄いですわ……」
「いや、このくらい誰でもできると思うんだけど……」
「それはできない人に対する侮辱ですわ」
つまりフィーネの事だった。
「まあ、人には得手不得手ってのがあるから……フィーネはコンピュータに関しては私なんかより全然凄いじゃない」
「ほおれふわ……ごほごほっ」
よほどお腹が空いていたのか、口いっぱいにパンを放り込んでいるからフィーネが何を言っているのかぜんぜんわからない……
「ほら、慌てて食べるから咳き込んでるし、落ち着いて食べなよ」
フィーネは無言で頷きながら、ミルクを喉に流し込んでいた。
そんないつも通りの平和な朝の風景は、ダイニングに突然ピピピと鳴り響く電子音によって遮られる事になった。
「通信だね」
「こんな時間にだれですの」
「まあ、思い当たるのは一人しかいないよね」
「まったく、朝ごはんくらいゆっくり食べされてほしいですわ」
食卓の椅子を離れて通信機まで歩いていき、ボタンを押す。
コールオンが鳴り止み、壁に備えつけられたディスプレイが明るく輝き、そこに一人の人物が映し出される。
よれよれのシャツにジーンズ、ブラウンの癖の強い長めの前髪を、真ん中で分けてセンターパートにした、
「よおお二人さん、朝から悪いな」
「悪いと思ったらかけてこないでほしいですわ」
「まあまあ、割りのいい仕事が入ってきたから、他の人らに取られる前に、いの一番に君らに教えてあげたくてね」
飄々とした表情でレガートは話す。
私たち
「割りのいい仕事?」
「ああ。電話ではなんだから、ギルドまで来てくれないか?」
「またやっかいな事頼む気じゃないでしょうね。私たちこれ以上変な二つ名とかつけれれるの嫌よ」
「はははっ、確かに、最凶の
「いや、笑う所じゃないから」
「まあ、若い女の子の
「わたくしたち、そんな野蛮ではないですわ」
「とにかく、この仕事は君らにしか任せられない案件なんだ。頼むぜ」
「まあ、レガートの頼みなら仕方ないか」
「わかりましたわ。朝ごはんを食べ終えたらそちらに向かいますわね」
「ああ、待ってるぜ……あ、寝癖はちゃんと直してきなよ」
レガートはそう言って通信を切る。
壁のディスプレイは再び真っ暗になった。
私たちは思わず見合わせた。
レガート側の通信機にも、私達の姿は映し出されていたはずだ。
フィーネはともかく、まだ寝巻きのまま、髪はぼさぼさですっぴんの私の姿は完全に寝起きそのものだ。
「あの男、いつか殺すわ」
「ま、まあまあアリアさん……レガートさんに寝起きの姿を見られるのは今回が初めてじゃないのでしょう。それだけお二人は仲が良いのですわ」
「それ、フォローになってないと思うんだけど……あの男のダメな所はああ言うデリカシーのない所なのよ!」
その後も文句を言う私をフィーネがなだめてくれたおかげで、フィーネにひとしきり愚痴を吐き出して気持ちを切り替え、準備を整えた。
私は黒地に赤のラインが入ったクロップドタンクトップと同じく黒のローウエストのショートパンツ、そしてやはり黒のオーバーニーのニーハイソックスに着替えた。
フィーネは淡いイエローのフリルが入った、スカートの裾が長めのワンピース。
「前から思っていたのですけど……」
フィーネが遠慮がちに私を見つめる。
「うん?何?」
「アリアさんのその装い、少々露出が多いのが気になるのですが……クロップドタンクトップはおヘソが出てるし、肩も出していますし……ショートパンツは脚が見えますし……なんと言うか……露骨ですわ」
「そお?私はこれくらいが丁度良いんだけど。それに足はニーハイで殆ど隠れてるよ?」
「その……ふとももの部分が見えるのが……なんだかいやらしいですわ」
「ああこれ、絶対領域っていって、男の人にウケが良いらしいのよ?フィーネもどお?」
「か、考えておきますわ……」
問答無用で否定されるかと思いきや、フィーネは顔を赤らめて俯きながらも否定はしなかった。
案外フィーネもやってみたいのかもしれない。
カリストのスラムで育ってパブでダンサーやってた私と違って、イオの財閥令嬢としてガチガチの箱入りで育てられたフィーネは肌を露出する服を着るなんて今までなかったんだろうな。
「お、その感じ興味あるんじゃない?フィーネならワンピースにニーハイの組み合わせも似合うと思うな。見繕ってあげようか」
「そ、そう言う意味で言ったんじゃありませんわっ!……でも、本当に似合いますの?」
「絶対似合うよ。フィーネは素材がいいもの。みてみたいなーフィーネの絶対領域……」
「う……試着するだけですからね……」
「よしじゃあ決まりね!これ終わったらフィーネの服を見に行こう」
「分かりました……アリアさんがそこまでおっしゃるなら、付き合ってあげても良いですわ……」
「素直じゃないなーフィーネは」
「は、早く準備してください」
「はいはい」
そうして着替えと準備が一通り終わった私達は、家を出るとリブレット号のある宇宙港に向かった。
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