ゆるふわスナイパー・アリアと、ゆるかわお嬢様・フィーネは絶対領域で無双する。

海猫ほたる

Op.1 宇宙女猫のための前奏曲

Nr.1 殲滅ーレクイエムー

 床に寝そべり構えたスナイパーライフルの照準器スコープを覗くと、そのスーツ姿の大柄な男は防弾仕様の車から出ようとしている所だった。



「いたよターゲットらしき。見える?フィーネ」


「ちょっと待ってですわ……ええ、あの殿方がターゲットで間違いないですわね」


「じゃ、っちゃうよっ」


「許可しますわアリア伍長」


「いつから私は伍長になったのよ」


「なんとなく言ってみたかったのですわ……アリアさん、東からの風が少し強くなって来ましたわ。コンマ右に照準を修正してくださらない?」


「り。任せといて!」


 私はフィーネに言われるがままにほんのわずかに照準を右方向にずらした。


 ターゲットに狙いを定めて引き金に指を掛ける。


「……ごめんねターゲットさん♡」

 

 サイレンサー仕様の銃身から放たれた鉛の球は私のいるビルの屋上から真っ直ぐに5エウロパキロ先のターゲットの元に飛んでいき、その首に見事に命中した。

 男はくずおれる様にその場に倒れる。


「おけ、殺ったよ」


「さすがアリアさん。相変わらず狙撃の腕前は天才的ですわー」


 いつも満点の優等生にテストを返す時の先生の口ぶりかのような、形だけの雑な賞賛を、この惑星の外、成層圏を飛ぶ宇宙船の中にいる相方のフィーネは無線越しに私に送ってくれた。

 

「本日の任務終了……っと。じゃ帰り支度をはじめよっかな」


「ちょ……っと待ってアリアさん!、スコープでもう一回ターゲットを覗いて下さいまし!」


 インカムから、さっきまでとは違って緊張感を孕んだフィーネの声が聞こえ、急いで照準器スコープを覗いた。

 

 先ほど私が撃ったスーツ姿のターゲットは地面に倒れて赤い液体が地面に染み出している。


 その周りには、スーツ姿の男たちがわらわらと集まってきていた。


 男たちの中に、見慣れない人型のロボットが二体混じっていた。


 ロボットは、真っ直ぐこちらを向いていた。そして、こちらに向かって指をさす。

 

 ロボットから私の姿は見えるはずがない。

 なぜなら、あそこからこのビルの屋上までは5エウロパキロ程の距離がある。

 

「まっずいですわ……あれ、ガニメデ製の最新鋭ロボットSPですわ……おそらく高性能のAI積んでるから、アリアさんが撃った弾の軌跡を分析しているはずですわ。あと、あのロボ、望遠レンズの性能もいいからその座標の場所ならカメラに撮られる可能性がありますわ。アリアさん、姿を見られない様に気をつけて下さいね」


「まじなの。私このままここにいたら、危ないじゃん……どうしよ」



 照準器スコープの向こうでは、ロボの周りにいる男たちの一人がなにやらでっかいロケット砲を担いでいるのが見えた。


 正気なの?あいつら5エウロパキロ先の私を、このビルごと吹っ飛ばすつもり?

 

「ねえフィーネ、あの人たちやばそうなの出してきてるよ……」


「待ってですわ。アリアさん、今すぐこの船に転送しますので、その場を動かないでください!5……4……」


 フィーネのカウントダウンが始まるとともに、私の体が薄く蒼い光を放ち始めた。

 宇宙船に搭載されたワープ装置であたしを船まで瞬間移動してくれるつもりらしい。


 男の撃ったロケット砲の球がいつの間にかもう目の前まで飛んできていた。

 

「1……転送!」


 私の体は光に包まれて消えた。


 消える瞬間、ロケット砲が体を掠める音と、ビルにあたって爆発する音がかすかに聞こえた。あれにあたってたら死んでたよ……あぶなかったー。

 

 目の前が真っ白になった。


 そして、すぐに視界は見慣れた宇宙船の中になった。

 私は船の中の小さな一室、転送装置の中にいた。


 ここは私とフィーネの宇宙船、リブレット号。


 転送装置から出て、駆け足でリブレット号の操縦室コックピットに向かう。


 自動ドアが開き、操縦室コックピットには色白で、ゆふふわロングな金髪ブロンド碧眼ブルーアイの美少女があたしを出迎える様に気楽にひらひらと手を振ってくれていた。

 

「アリアさん、おつかれですー」


「おつかれ……じゃないよもう。こっちは死にかけたんだからね」


「ほんとですわね。あんなロボットがいるなんて、レガートさんもひと言いっておいてくれても良いのですが……」


 フィーネと組んだばかりの頃は、どう見ても世間知らずのお嬢様で一見足手纏いにしか見えないこの娘と組んで上手くやって行けるんだろうか……なんて考えていた事もあったけど、なんだかんだで上手くいっている気がする。


 ちなみに私の方はフィーネの様な綺麗な金髪ブロンドではなくて、赤毛のミディアムショートの髪だし、目の色もあんな綺麗な色じゃなくてよくいるエウロパ生まれの琥珀色アンバーの瞳だったりする。


 当然だけど、フィーネの方が圧倒的に男たちににモテてたりする。


 一息ついた私はエウロパコーヒーでも飲もうかと、席の下にある収納スペースからインスタントコーヒーの袋を取り出した。


 その時だった。


「アリアさん、やばいですわ」


「今度はなに?」


 再びフィーネの緊張感をはらんだ声がして、私はコーヒードリッパーに入れようとした手を止め、インスタントの粉を手にしたまま振り向いた。


「レーダーに反応がありますわ!正体不明の小型機が二機……真っ直ぐこっちに向かって来てます」


「それって……」


「飛んできた方向からして、ターゲットの部下……の船みたいですわね」


「まずいじゃん、早く逃げようよ」


「らじゃですわ、アリアさん、席に座ってシートベルトをおねがいですわ!」


「あー、運転は、お手柔らかにおねがいしますね……」


「むりですわ。死にたくなければ、しっかり掴まってて下さいな」


「はーい……」


 フィーネは操縦桿を握ると、表情が変わる。

「さあ、飛ばしますわよー!」


 ぐんっと背中がシートに押しつけられ、リブレット号が一気に加速した。

 レーダーに映る敵船はまっすぐこちらに向かって来ていた。

 だけと、一気に加速したリブレット号は敵機から距離を離す事に成功した。


「敵さん、わたくしに追いつこうなんて、甘いですわ!おほほほほ」


 フィーネの高笑いが響く。次回からはなるべく、この娘に操縦させるのはやめよう。


 突然、レーダーに新たな船のマークが現れた。

 それもこの船の周りに大量に。


「なっ!」


「マジ!?」


 この船の周りに、大量の敵の小型船がワープして来ている。


「やばいよフィーネ!」


「……」


「……フィーネ?」


「ふ……ふふふふ……」


 フィーネは操縦桿を握りしめたまま、静かに笑い始めた。

 これは……

 

「うふふ……全く……この程度で私たちを倒せるなんて……」


 これは……完全にイッちゃっててる……

 

「甘い!甘々ですわっ!私たちを甘く見たことを、後悔させてあげますわっ!」


 とはいえ、レーダーに映る敵機の数は十数機、次々にワープして来る敵船は、距離をとってこのリブレット号の周りを完全に取り囲んでいる。

 正直、絶対絶命な状況だと思う。

 そう、普通の銀河賞金稼ぎバウンティハンターが乗る小型なら……

 

「アリアさんっ、私たちの実力を見せてさしあげましょう!」


「お、おーけー」


 でも、私たちのこの船、リブレット号はそんじょそこらの船とは違っていた。

 

「モードチェンジ!超高速移動メヌエットモード起動!」


 フィーネは叫びながらコンソールパネルのボタンを押す。

 本当は叫ばないで、ただボタンを押すだけでいいんだけどね。


 ディスプレイに『モード*メヌエット』の文字が浮かび上がり、がこん……と船の中で何かが動く音がした。

 リブレット号のエンジンをオーバークロックさせて超高速移動フルバーニングができるチート機能……それがメヌエットモード。

 

 でも、敵さんも黙って見ててくれたわけではなさそうだった。

 リブレット号のディスプレイが赤く点滅して、警告音が鳴り響いた。

 

「フィーネ!ロックオンされたよ!」


「いまさら遅いですわ!」


 レーダーには、取り囲んだ敵船から一斉に、この船に向かって無数の細かい点が放たれた。

 ミサイルだ。

 

 レーダーに映る無数の点は、全てリブレット号に向かって集まってくる。

 

「ミサイル来たよっ!」


「余裕ですわっ!」


 フィーネが叫ぶと同時に、背中にもの凄い圧がかかる。

 リブレット号はもの凄い加速で前進し、後ろから飛んで来たミサイルを避けると直後反転し、前方から飛んできたミサイルも避ける、間髪入れずに方向転換して他のミサイルも次々に避けていった。

 その度に右から左から上からとジェットコースターの様に次々に圧が掛かって痛いしシートベルトが食い込むし気持ち悪い……のだけど、今はそんな事言ってられる状況じゃない。

 

 そして、ありえない軌道を繰り返したリブレット号は全てのミサイルを避け切った。

 

「さ……さすがフィーネ……」


「まだまだ、これからですわ。今度はこちらから攻めに転じますわよ!」


 レーダーに映る敵機の方も以前この船を取り囲んでしる。

 このまま黙って逃してくれそうな雰囲気ではなさそうだ。


 今は彼ら、袋の鼠だと思っていた船がありえないほど俊敏な動きを繰り返して全てのミサイルを避け切った事に驚いて動揺している所だと思うけど、すぐに気を取り直して次のミサイル攻撃が再び始まるだろう。

 

「行きますわ!モードチェンジ、殲滅レクイエムモードっ!」


 ディスプレイに『モード*レクイエム』の文字が浮かび上がり、再びリブレット号の船体が、がこんと音を鳴らす。


 見た目は普通の小型船だったリブレット号の姿が変わる。

 船から多数の兵装がニョキニョキと生えるように出てきて変形し、あっという間に最新鋭の戦闘機の姿になっている。

 

「敵の皆様方……お覚悟なさってくださいね」


 リブレット号から大量のミサイル、レーザー、誘導爆弾が雨あられと放たれた。

 一度に四方発報に放たれたその兵器は、取り囲んだ敵の船に次々と命中し、不意をつかれた敵の船たちを、あっという間に破壊し尽くした。

 

 いつ見てもヤバいと思うこの兵器……

 

「全弾命中……とはいかないみたいね」

 

 慌てて緊急回避したいくつかの船はまだ生きていた。

 

「逃しませんわっ!」


 フィーネが言うと、再びリブレット号はすごい速さで加速した。

 生き残った船の一機目掛けて飛んでいくと、容赦無くレーザー兵器で破壊する。


「うふふ……まずひとーつ」


 そして、すぐに方向転換すると、次の敵機に向かって飛び掛かって言った。

 敵機を見つけ次第、レーザー兵器とミサイルで容赦無く破壊していく。

 

「もうひとーつ、さようなら」


 わずかに残された敵機を、フィーネは笑いながら各個撃破していった。

 そうしてあっという間に全ての敵を破壊し終え、レーダーには完全に敵機の姿がいなくなった。

 

「……もう、おわりですの。あっけないですわ」


「フィーネのおかげで助かったから何だけど……相変わらず、怖い性格してるよね」


「褒められると照れますわ」


「褒めてない褒めてないっ」


 私とフィーネは互いに顔を見合わせて、ふふっと笑った。

 そして、少しの……ほんの少しの間、私たちはその場で佇んで戦闘の余韻にひたっていた。


「さ、任務も終わったし、帰りますわ」


「そだね。帰ろっか」


 フィーネは武装を解くボタンをポチッと押す。

 リブレット号は再び普通の小型船の姿に変形した。


「今日はエウロパステーキが食べたいなー」


「合成肉じゃないのがいいですわね」


 リブレット号は、私たちの母星エウロパに向けてゆっくりと前進を始めた。

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