第15話 画家が鍵なのか、そうじゃないのか…
「お椀が欠けているのに価値があるの?割れているんでしょ。なんで?」
クロの反応を楽しむカイト。そのとき、クロはカイトが話す際の表情を見ながら盗難する対象は何なのか、共通点があるのかを考えていた。
『もしかしたら、狙っているのは絵画を描いている人のほう?画家がカイトと同じ世界の人なのか?』
そう聞こうとしてクロはためらった。
『今、聞くのは止めとこう。』
いい線を付いているように感じながらも、画家が時間が変わらない世界の人だったら何なのか、カイトが画家に何かを期待しているのか、元の世界に戻る方法を知りたいのか、何となく、何かが違う感じがする。そんな感覚がクロを留めていた。
何かヒントがないかを考えながらカイトを観察する。いつも人を観るときには使用出来る時間の長さが感じ取れるが、今、眼の前にいる男からは何も感じない。その不思議な感覚がクロの判断を狂わせている。
時間を読み取ることが出来ないこと、ただそのことだけが逆にクロは自分の時間が読み取られているような感じがしていた。
翌朝、クロは盗られた絵画の作者に共通点がないか調べていると
「やっぱり!」
「あ〜、やっと気がついたです?」
見つけた手掛かりに声が出てしまったが、今頃になって気づいたかと助手のカスミが蔑むような目で見ている。
「カスミ、もしかして気づいていたの?」
「すぐに気が付きましたよ。そして欲しがっているものは、すでにここにあるです!」
「えっ!!!!! ほんとに!!」
クロはカスミの周りを見るが何か変わった部分はなく、誰かが登場する感じもない。
「画家の…、かたは?」
「画家?、いないですよ。何でです?」
「いやいや、盗難された絵画を描いた画家さんが登場する場面かと…、リアクションの準備していたんだけど…」
カスミは、キョトンとしてこっちを見ている。
「盗難された絵画の共通点を探していて、画家に秘密があるのかと思っていて何かヒントを見つけた際のやっぱりだったんだけど…」
「そうだったんです?」
「じゃあ、何だと思ってたの?」
「これです!」
そう言いながらカスミがボールペンを差し出した。
「昨日、バーで忘れて来たでしょ!」
「…」
カイトはキョトンとしてカスミを見た。
「このボールペンが…、絵画の盗難につなが…」
「つながるわけないです!!。これはクロがバーで忘れて来たボールペンで、いつも持っているやつです!!カイトが持って来てくれたです。」
「カイトが?」
カイトに探偵事務所の住所は教えていなかったんでは?と気になりながらの「?」
「カスミ、受取ってくれてありがとう。次にカイトに会う楽しみが出来たよ。」
時間が報酬の世界では、タイミング良く直接お礼を言うことが出来なくても、次に感謝を伝える機会が得られるキッカケとなることも価値がある。
直接伝える感謝のほか、再会を楽しみに思う感謝にも時間が付与されるため、相手に直接渡すタイミングを図ったり、後回しにせず、カイトのように直ぐに行動する者が感謝、楽しみを多く生み出し、時間が多くなる。
「カイトにお礼するです! 1回盗難を見逃しするとか、どうですか?」
「いやいや、1回も何も、捕まえたことないから。でも、もしかしたら見逃してしまうかも…」
「どれだけボールペン大事なんですか?」
すかさずツッコミを入れるカスミに、クロは笑いを我慢出来ずにいると
「そのボールペン、いつも持っていますよね。ちょっとくらい気持ち揺れて、見逃したくなるんじゃないです?」
クロは笑いながら
「大事なボールペンだよ。盗難と比較して見逃すってことはないけどね」
そう言いながら、クロは手元のボールペンを見ていた。
『いや。きっと、見逃してしまう…』
つづく
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