第7話 絵の価値、富豪だけが知る世界
『清掃員のモラルが高いのかもしれないな』
『いや、違う…。そうじゃない!』
いかに清掃員の業務が良い行動をするために時間が増えやすくなっているといっても、貴重なものが無造作に置かれていたら持って帰るんじゃないか?そんなふうにカイトは感じていた。
『もしかして、絵の価値が伝わってないんじゃないか?』
『時間を持っている人が価値があると感じているものと、時間を持っていない人が価値があると感じているものが違うんじゃないか?』
『そういえば、この部屋のことを聞いたとき、《ソファしかない部屋》と言っていた…』
『絵は???』
『おそらく、絵についての興味はほとんどなく、自分たちが描いたものとか、そこらにポケットティッシュがあるくらいにしか感じられていない。そんな感じがする。』
カイトはお金の世界を思い浮かべてみた。
『もしかしたら、お金の世界も…。』
『お金持ちの方々が欲しがっているものって何だろう。高価なものとしか思っていなかったけど…気がついていないだけ、見逃しているだけで、身近なもので価値があるものをスルーしてしまっているんじゃないか?』
『価値を知ると大切にするものがわかる気がする。時間を多く持っている人の求めているものって何だろう?』
『絵、盗ったら求めているものって、わかるのかな? 盗ったら問題になるのかな?時間は減るのかな…』
カイトは絵画を盗ったときに持ち主が犯人を探したり、絵を探すことで、時間を持っていない人が絵を貴重なものとしての認識ができるようになると考えていた。
『時間を多く持っている人の価値を知り、同じ感覚で価値を感じたものに身を委ねると時間って、たまりやすくなるんじゃないか?』
『…お金の世界もそうなのか?』
『ただ一つ、気になっていることがある。絵画泥棒をしたあと、貴重なものを皆んなが知り、貴重な絵画に興味を示すようになる代わりに自分は捕まってしまい、時間が短くなるだろう。』
『どうしたものか…』
『この世界の貧富の差が無くなる未来を見てみたい。時間が短くなっても、その未来を見ることができれば満足。やってみたい。。。』
そして、カイトは鍵のかかってない部屋に入り、絵画付近を清掃しながらおもむろに絵画を壁から外し、持って出た。
「絵がない!!!」
「ここに飾っていた山の絵、誰か知らない?」
もちろん、盗られているから誰も知らない。
絵画が無くなった部屋は、この部屋を含むいくつかの部屋を事務所として使っている会社の一室。その部屋の前には絵が無くなっていることを聞いた社員が慌てている。
「盗られたのかも!警察に連絡しますね。」
社員の一人が連絡をとりに走って行こうとすると、
「待って!!」
「物置にある水面に山が映っている絵、持ってきて代わりに掛けといて。」
「えっ、現場検証とかありますし。そのままにしておいたほうが…」
「そうね。じゃあ、こうしましょう。写真や動画撮っといて、後で警察の方に渡してね。で撮り終わったら絵を掛けといてね。」
「わかりました。」
といいつつ、社員の顔は困惑していた。犯人を探す気がないように見えたからだ。
「あの絵、貴重なものじゃなかったんですか?」
「ん?、かなり貴重ですよ。盗った人は価値を知っていたんじゃないかしら。」
「悔しがったり、捕まえようって感じに見えないんですが?」
「あっ、そう?時間もったいないからかな。人の手じゃなくても物が無くなることってあるから、そこに時間割いたときに、どうなるんだろって思うからかしら。それより、早く時間を生み出す状態にしないと…」
口ぶりから、絵があること、掛けていることが時間を生み出すような感じがする。
『絵って、なんだ?』
つづく
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