第5話 時間が短くなっても盗るものって?

カイトは、バー【くろの巣】で、お店のマスターに仕事について聞いてみた。

「最近、話題になっている仕事や、求められる仕事って何かあったりしますか?」


「そうだね、最近は泥棒かな」


「えっ!泥棒ですか??」



カイトは度肝を抜かれた。悪いことをすると時間が減る世界では悲惨な末路になるはず。


「普通に盗ったら、もちろんときが減っちゃうからオススメ出来ないんだけど、世の中、一括りに出来ないもので、その後に良い流れになることがあるんですよ。ね、クロさん。」


マスターの視線の先、バーのカウンターでは男性が一人で飲んでいた。

 


「マスター。その話、好きですね。」


「どんな話なんですか?」


「クロさん、お願いします!」


マスターも何度も聞いている感じで、どうやら何かあるたびに話をふっているネタのようだ。


「泥棒の話なんだけど…、基本は盗ることは良くないから…」


と前置きしつつ話し始めた。



「盗んだとき、対象物の貴重さや、みんなが大切にしている物によって翌日のときの減り具合が違うんだけど、あまり減らないことがあったんだ。むしろ、周りの人とかを含めると全体では増えたほうが多くなったかな」


「美術館で絵画が盗まれたんだけど、盗んだ目的が身内に見せたかったってことだったんだよ。身内の方が近くの入院していて、あまり先は長くはない状態で…」



「その絵ってのは、身内の方の生まれた町の景色の絵で、もともとは、そのご家庭で持っていた絵だったのが良くない方法で人手に渡ってしまって、転々として美術館で展示されるようになってたから、想い入れもあったんだ。」


「ずっと見たかった絵だったから美術館の近くに住んで、ただ、その後入院してからは近くには居るけど絵は見れない状態になってて…」


「なんとか一目見れないかと、犯人も動いていたみたいなんだけど、なかなかね。」



「で、ときが短くなってもいいからと絵画を盗ったんだよ。ただ病院に運ぶ前にみつかっちゃって、失敗したんだけど…」


「で、ここからの話が、ちょっといい話で。」


「美術館の人たちが入院している犯人の身内のために、病院でその絵画の展示会をしたんだよ。」


「凄いですね!!」

カイトは聴き入っていたが、意外な結末に驚いて声にでた。



「その結果、美術館の人、病院の人、また入院している患者さん、そのご家庭が互いに感謝して、笑顔になってときが凄く増えてね。今では、その美術館と病院のコラボ絵画展示は定期的に行われるようになったんだ。」


「絵画自体も戻ってきたこともあって、美術館側も犯人に対してお咎めもなく、犯人は翌日のときが少し短くなっただけで済んだってことがあったんだよ。」



「この話、何回聞いても、いい話で…」

どうやらマスターのお気に入りの話みたいだ。


「クロさん。価値あることや繋がりって、不便なことや何とかしたい思いの先に見えてくるんですね。」


そう言いながら、カイトは何かお役に立てる仕事に繋がるヒントがないかと“不便”について考えていた。



「マスター、話題になってる話、面白くて、ほっこりして良かったです。ただ、泥棒は仕事としては求められてなさそうですが…」


マスターに感謝しながら、カイトは、ふと思うところがあった。


『絵画って、お金の世界では凄い金額で売買されたりしているけど、この世界ではどうなっているんだ?絵画の価値はどうなっているんだ?』


『ちょっと気になることがでてきた。』



…つづく

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