第30話 さらば、雨之島よ

『皆様、当機はまもなく出発いたします。東京空港までの飛行時間は約一時間を予定しております』


 音質の悪いマイクを通した機長の声が機内に響いた。

 俺は窓際の座席に座って、外を覗いた。澄み切った秋空が目の前に広がり、滑走路が強い陽射しに照らされている。

 一人の客室乗務員がアイルを進みながら飲み物や食べ物を売ろうとしている。

 俺はコーラを一つ頼んで、じっくりと飲む。

 しかし、母は何も頼まなかった。彼女は引っ越しの準備で疲れ果てたのか、目を閉じて眠っている。

 少し間を置いて、飛行機が動き始めた。

 俺は飲みかけたコーラをこぼさないようにしながら、次第に小さくなっていく雨之島を俯瞰ふかんする。

 学校や住宅街がまるで蟻のように見えた。

 それに、俺と三那子が探索した密林が一望できるような大きさになった。

 密林のような大きなものが蟻と同じくらい小さくなったなら、家より小さいものが見えるはずはない。それなのに、何かが俺の視線を引いた。

 蟻よりも小さく、強いて言えば一粒のような大きさだった。

 それでも、あの黄色のやつはずっと俺の脳裏に焼き付いている。

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