君のためにピアノを弾きたい

 青年にはプロピアニストになるという夢があった。

 彼のピアノを聴いて一人の女性が彼に思いを寄せるようになる。

 彼女は毎日ピアノを弾く彼に寄り添った。

 青年はというと彼女がうっとりと自分の音色に聞き入るのを心地よく思っていた。

 青年は毎日ピアノを弾き、彼女は毎日からのピアノを聴いた。

 幸せだった。

 ある日、青年は日々の練習の甲斐あって、ウィーンにある有名な音楽学校に通うことになった。

 それは彼女を切り捨て、たった一人で異国の地で音楽の道を歩むことを意味していた。

 彼女と離れたくない。

 青年は迷う。

 青年は飛行場で航空チケットを破り捨てた。

 飛行機には乗らなかった。

 青年は夢を諦め、たった一人の女性に音楽を捧げる道を選んだのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る