一目惚れ

 入学式が終わり、初めてのクラスで僕は恋に落ちた。

 クラスに入って来た彼女を見た瞬間、僕は恋に落ちた。

 サラサラの黒い髪は背になびき、長いまつ毛はどこか濡れていて、憂いをひめたその瞳は海の底のように美しかった。

 見ただけだ。

 息を呑む。

 息もできなかったし、声も出なかった。

 時間が止まったかと思った。

「見つめすぎよ。何かよう?」

 気がつくと彼女が僕の机の前に立って、少し棘のある視線をもって僕を見下ろしていた。

「…」

 太陽を直視して瞳に何も映らない時のように、僕は目を細めて彼女を見つめる。

 彼女と僕の間で時間が流れる。

「きれいだ」

 その言葉だけが口からこぼれ出た。

「久保みなみ」

 彼女の言葉はふわりと漂い、僕の心をなでた。

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