初恋の音色

 彼はしがないミュージシャンだった。

 出会った当初、彼は一本のギターを大切そうに抱えていた。

 それが彼の唯一の財産だった。

 彼はギターを売って私に安い指輪を買ってくれた。

 ギターを失った彼はミュージシャンを辞め、私を幸せにするために小さな広告代理店に就職した。

 時が経ち贅沢をしなければ難なく生活ができる程度にはお金が溜まった。

 私は唐突に彼の歌が聴きたくなった。

 私は中古楽器店を探し回り、ついに彼の持っていたギターを見つけた。

 埃をかぶっていた。

 私は彼の働いたお金でそのギターを買い戻す。

 ギターを抱えて小さなアパートに戻る。

「ねえ、歌って」

 私は彼にギターを手渡した。

 そして私は彼の横で久しぶりの初恋の音色に耳を傾けた。

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