若菜と紗里 私のせい 14

 紗里さりがお風呂から上がり、それからしばらくして若菜わかなも上がってきた。


 若菜が着ているのは、下着も含め全て紗里の物。本当なら、自分の服を若菜が着ていることに大慌てするところだが、今はもうそんなことを気にしていられない。


 浮かない顔をしている若菜、まだ髪の毛は濡れたままで、タオルを首に巻いて出てきた。


 紗里がコップに水を入れて渡せば受け取ってくれ、飲んでくれる。


「おいで。髪の毛、乾かしてあげる」

「大丈夫だよ」

「……そう」


 ソファーに座る紗里に首を振った若菜。それでも、ソファーの下、紗里の足下で髪の毛を乾かし始める。


 髪の毛が短い若菜は、わしゃわしゃと適当に乾かす。時間もそれ程かからず乾かし終える。


 犬のように、頭を振って乱れた髪の毛を戻すと、ソファーに座る。


 隣に居る紗里をチラリとだけ見て、恐る恐る口を開く。


「無理……してないの……?」

「していないわよ」

「でも、今日はずっと動いてたよ?」

「あれぐらいなら大丈夫。若菜達も動いてくれたし。本当に、若菜が心配する必要は無いのよ」

「心配するよ……」


 お風呂の中よりかは冷静に話ができる。それでも、やはり若菜の気持ちが晴れる様子は無い。


「若菜が私を動かしてくれなかったら、体を鍛える機会が減って、もっと壊れやすくなっていたわ」

「なんでそんな嘘をつくの?」

「嘘じゃないわよ」

「私が紗里ちゃんを誘ってなくても! 紗里ちゃんは、自分で鍛えるじゃん……」


 若菜に誘われて、一緒に運動をしたからこそ、それで体が鍛えられて壊れにくい体になると言う紗里と、自分が誘おうが誘うまいが、自分で考えて、自分の体が壊れないように鍛え続けるだろうと言う若菜。


涼香りょうかのフォローでも鍛えられるんなら、私関係無く鍛えてるじゃん」

「それは毎日じゃないわよ」

「それだったら私だって毎日じゃない!」


 なにを言っても聞いてくれない若菜に、紗里は焦りを覚える。


 なにを言っても若菜には伝わらない。若菜の言っていることは正しいし、紗里の言っていることも正しい。どちらも正しい、間違って無いのだ。それ故に平行線を辿るのだ。


 だからといって、黙っていてもなにも解決しない。


 紗里にはこの状況が今にも崩れそうな崖で立っているように思える。今この瞬間にも、若菜との関係が壊れてしまいそうな予感を感じる。


 このまま関係が壊れてしまうと、ずっと若菜はこのことを後悔しながら生きることになるだろうと考えたが、それをすぐに否定する。


 ただ自分を守るために、若菜との関係を壊したくないから、紗里は必死に若菜に伝える。


 好きな人には自分のことを知ってほしい。自分の身勝手な理由で、好きな人を傷つけた。


 なにも言わなければ、今頃、いつも通り笑って過ごせていたのに。


 そんな好きな人若菜の笑顔を奪ってしまった。それは全て。


 ――私のせいだ。

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