若菜と紗里 私のせい 13

「急にどうしたの……?」


 恐る恐る若菜わかなの顔を見てみるけれど、ぼやけていて、はっきり見えない。だけど、いつも笑顔で明るい若菜とは思えない程、重苦しい表情を浮かべていることはなんとなく分かる。


「どうして、急に謝るの? 若菜はなにも悪くないのよ?」


 分からない、どうして急に若菜が謝ったのかが――。


「だって私……紗里さりちゃんに……無理をさせてた……」


 そこまで言われて、私は理解した。若菜がなにを謝っているのかを。


 だけどそれは、謝られる筋合いは無い。若菜は全くの無関係だから。


 若菜は私に運動をさせようとしていたことを悔いているはず。今日のボウリングみたいに、涼香りょうかちゃんによる物理的被害を防ぐために呼んだり、それ以外にも、若菜は私の運動能力に目を輝かせて、一緒にバスケの練習をしてくれと頼まれて、付き合ったりもした。


 若菜はそれに対して謝っているんだ。


「これは若菜のせいじゃないのよ」


 若菜は悪くない、謝る必要なんて無い。だから私は、慌てず、ただ事実を述べる。


「言ったでしょう? 今はどれくらい動けば体壊れるかは把握しているって。それに、体が壊れるかもしれないからって、なにもせずにじっとしていても駄目なの。定期的に動いて、少しでも筋力をつけないと」

「でも……」

「若菜は悪くないの。悪いのは私よ、最初から言っていればよかったわよね」

「でも、紗里ちゃんが言わなかったのは、理由があるんでしょ? それなのに、なんで最初から言えばよかったなんて言うの?」

「それは……」


 一度悪い方に考えてしまうと、どうしてもそれに足を取られて、もがけばもがく程沈んでいく。今の若菜はその状態のはず。


 このまま私が否定しても、溺れてもがいている人を助けるように、私も一緒に溺れてしまう。


 どうにかして、若菜を落ち着かせないといけない。


 もう好きな人と一緒にお風呂に入っている恥ずかしさなんて吹き飛んで、今はただ、若菜にそんな顔をしてほしくないとだけ願う。


 私は俯いている若菜の頭に手を伸ばす。こういった時、どうした方がいいのか分からない。涼香ちゃんと涼音すずねちゃんのやり方は全くもって参考にならないし、他の子達のを――と思ったけれどよく知らない。


 だから、私なりのやり方をやるしかない。


「若菜、まずはお風呂から出て、落ち着いて話しましょう」


 今は少しでも時間を使って、冷静になる時間が必要だと思うから、今この瞬間に解決しようと焦らないように、努めて冷静に言う。


「先に上がらせてもらうわね」


 自らの意志で伸ばした手は、若菜に触れることはできなかった。

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