若菜と紗里 私のせい 12
先に私が湯船に浸かる。
「うえぁぁぁぁ……」
緊張を解くまではいかないけど、いくらか気持ちが楽になる。
思わず情けない声を出してしまった私に、
そんなリアクションを取られるとは思ってなくて、なんとなく恥ずかしくなって顔を背ける。
しばらくしてから身体を洗い終えた紗里ちゃんも中に入ることになって、私は頑張って身体を縮こまらせる。
一気にお湯が増えて、私の足先に柔らかい紗里ちゃんの身体が当たる。
「ごめんなさいね、無理をさせて」
「ううん、お湯が増えていい感じ」
家では肩まで浸かる程のお湯は無い。肩まで入るなんて、修学旅行以来だ。
私の目の前には横を向いた紗里ちゃん、左半分を見せているから、背中の傷跡は見えない。
だけど左の太ももにも、さっきと同じ傷跡があるのに気づいた。
私の視線に気づいた紗里ちゃんが、私の顔をチラリと見て答える。
「傷跡は脚と背中の二つだけ……小学生の頃についたの……」
その語り口から、今から傷がついた経緯を話してくれるのだと分かった。
こういうデリケートな話はやっぱり緊張するみたいで、紗里ちゃんの顔はかなり赤くなっていた。
「確か……小学一年生の時ね。あまりいい記憶ではないけれど。友達と遊んでいた時――」
あまりいい記憶じゃないと言った通り、紗里ちゃんの言葉は早口だった。
「嫌な記憶は、無理して思い出さなくてもいいんだよ?」
そんなに嫌な記憶なら、無理に思い出してほしくない。
「……そうね」
紗里ちゃんは少し安心したように、少し考える素振りを見せる。
「この傷は――違うわね……」
どう話そうか悩んでいるみたいだ。いつも、どんな問題もスラスラ答える紗里ちゃんでもこんな時あるんだなって、知らない一面を見れて少し面白い。
「どうして笑うのよ」
耐えられなくて、思わず吹き出してしまった私に、紗里ちゃんは少し子供っぽく怒る。
「ごめんごめん、いつもの紗里ちゃんと違って、なんていうか可愛くて……ははっ、つい……」
「かわっ……⁉」
今まで以上に顔を赤くする紗里ちゃん。
紗里ちゃんって可愛いよりか美人だから言われ慣れてなさそうだ。
「わっ若菜も可愛いわよっ……‼」
「またそんな適当なことを」
私は可愛さとは無縁だ。中学の時は別にモテなかったし。
可愛い顔で言ったら
他にも可愛い子はいっぱいいるけど、それに比べたら私は可愛くともなんともない。
そんなやり取りをしていると、かなり力が抜けて、それは紗里ちゃんも同じみたいで、ググッと身体を伸ばしていた。
私よりも力があって運動できるのに、私よりも細い体。紗里ちゃんも涼香もだけど、体の構造からして私達とは違うような気がする。涼香は体だけじゃないけど……中身に関しては私も言えないか。
「私の体はね、自分の能力に見合っていないの」
その流れで、まるで世間話でもするような調子で紗里ちゃんは語り出す。
「見合ってないってどういうこと?」
「この体が出せる出力以上の力を持っているの。そして、それを出すことができる」
「それって……」
いまいちピンとこなくて、難しい顔をしていると、紗里ちゃんは私でも理解できるように答えてくれた。
「私の体の強度が百だとすると、私の運動能力や力は二百。それの方が分かりやすい?」
「強度が越えてるよね……?」
「そうなの。例えば、五十メートルを五秒で走れる能力を持っていても、私の体は九秒でしか走ることができないのよ」
「……あっ、なるほど」
カッコいい言い方をすると、紗里ちゃんの潜在能力に、体がついていっていってことだ。
でもそれって――。
「つまり、九秒でしか走れない体なのに、紗里ちゃんは無理をして五秒で走ってるってこと?」
「そういうこと。そういったことをやりすぎたせいで、できた傷がこの傷なのよ。小さい頃はそんなこと知らなかったから。でも、今は大丈夫よ。どれぐらい動いたら体が壊れるのかを把握しているから」
「もしかして……紗里ちゃんが運動部に入らないのって――」
「さっきは嘘をついたわね。本当は、ずっと動けないからよ」
それなのに……私は……。
「あっ……じゃあ……私は……」
私は……。
「若菜?」
「……ごめんなさい」
――紗里ちゃんの体を壊そうとしていたんだ。
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