若菜と紗里 私のせい 11

 浴室の広さは、なんとか二人で入ることができる広さだ。湯船も、詰めれば二人で入ることができる。この時点で春田はるた家のお風呂よりも広い。


ひろーい……」


 自分の家と比べて、いつも通り悲し気な若菜わかなの様子に紗里さりは息を呑む。


(やっぱり……若菜は気にしないのね)


 大きな安堵が紗里の胸中に広がる。


 とりあえず、先に頭と身体を洗ってから話そうと決める。


「先に洗いましょうか」

「そだね」

(洗うって……洗い合いっこ⁉ 待って、こんなギリギリの浴室で若菜を待たせるの⁉ 違うわ、若菜に先に洗ってもらわないと)


 頭の中に、泡まみれで身体を密着させるイメージが浮かぶ。そんなことはしないのだが、心臓がドブネズミみたいに美しくなりたい曲のサビのリズムで拍動する。


「ささささささ先に洗って」

「え、でも紗里ちゃん寒そうだし……、汗かいてたから?」

「別に寒くないわよ?」


 誤魔化すように紗里はシャワーを出す。そして、お湯はいきなり出ないことを思い出し、身をよじって最初に出てくる水を避ける。


「冷たっ⁉」

「ごめんなさい‼」


 後ろにいた若菜に水がかかってしまう。反射的に振り向いた紗里は自分の目の悪さに感謝する。


 身を縮こまらせる若菜の姿がぼやけてよく見えないのだ。これがハッキリ見えていたのなら、心臓の耐久限界を超えていただろう。だからといって視界に入れておける訳ではない。見えない分、色々と想像をしてしまうのだ。


 ようやく出てきたお湯を顔を背けて若菜にかけてあげる。


「あああったかい……」

「座って。洗ってあげるわ」

「ええ、いいよ別に」

「いいから」


 そう言いながらも動かない若菜を押して押して椅子に座らせる。


 強制的に若菜を洗う。洗わせればいいのだが、紗里はもうなにがなんだか分からない。それでも、若菜の頭を洗う手は優しく丁寧に、それだけは無意識でも気をつけることができる。


 身体を洗う時、背中だけは洗って、後は若菜に任せる。


「他は……自分で」

「う……ん……」


 若菜を待っている間、手持ち無沙汰になった紗里は器用に自分の髪の毛を洗い始める。


 もうなにも考えていなかった。

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