若菜と紗里 私のせい 7

  食事を終え、再び勉強に戻った若菜わかな紗里さり


 この後のことを考え、紗里は再び目を回す。


(おおおおおお風呂、お風呂はどうすればいいの? 私が先に入るの? 若菜を先? それとも、二人で? 頑張れば二人で入れそうもないけれど、どどどうすれば……‼ 私の浸かった後に入られる、若菜の浸かった浸かった後に入る……。私が先? 若菜が先? 二人? 涼香ちゃんと涼音ちゃんみたいに二人で⁉ でもあの子達は一般常識の埒外の存在……。どうすればいいの! 若菜、教えて‼)


「紗里ちゃん、ここよく分かんないんだけど」

「ああ、そこはね――」

(私もよく分からないわ‼ こういうのはどうすればいいのよ!)


「さすが紗里ちゃん、すっごい」

「若菜もすぐにできるようになるわよ」

(待って。私のシャンプーを使うのよね? 同じシャンプーを使うのよね⁉ ボディソープも? 若菜とお揃いなの? 確か涼香ちゃんと涼音ちゃんはいつもお揃いの匂いだったけれど……。それを私と若菜が⁉ たまたま同じ物を使っていたのではなく、一緒に過ごしているから同じ物を使うのよ? それに、若菜の肌に合わない可能性も。まずはシャンプーとボディソープから買いに行くべき?)


「ここはこうするのよ」

「うわあ、ややこしい」

(そういえば、歯ブラシもストックしているのを渡せばいいと思っていたけれど、若菜がいつも使っているのじゃないと磨き残しがでるかもしれないわ。歯磨き粉もそうね)


「そこは細かく分けて考えてみるとやりやすいと思うわ」

「……こういうこと?」

「そんな感じよ、でも不正解ね」

「そんなあ……」

(化粧水関連も私の物で大丈夫かしら? それをいえば枕だってそうよ! 枕が変わっても眠れるのかしら? あとマットレスも。でも若菜のことだからソファで寝ると言いそうね、それは止めないと。私の布団で――私の布団⁉)


 考えれば考える程、あらゆることが気になる紗里。紗里の頭脳をもってしてもどうすることもできない。


 やがて、処理限界を迎えた紗里は、目を回しながら宣言した。


「若菜‼ お風呂に入るわよ‼」

「え? もうそんな時間? ――うわほんとだ⁉」


 明らかに突然声を張った紗里なのだが、実際にもう風呂に入った方がいい時間のため、若菜は驚くだけだった。


 実際、今日は運動をしたのだ。いくら冷房が効いている館内とはいえ、動けば汗はかくものである。


 それに、二人とも緊張のせいで嫌な汗をかいている。


「ええとお風呂はどうすれば……、ええと紗里ちゃんから……? 私人の家に泊まったことないから分からな――人の家だ……‼」


 今の今まで集中して勉強をしていたため、人の家に上がっている緊張を感じずにいた若菜だったが、お風呂の時間ということで、再び緊張モードに入ってしまったのだ。


 ギギっと音を立てて紗里を見る若菜。


「どどどどどどうすれば?」

「せっかくだし、一緒に入りましょうか」


 自分より慌てている人を見ると、冷静になるもの――ではなく、もうなにも考えていない紗里はにこやかに答えるのだった。

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