若菜と紗里 私のせい 6

 若菜わかなが指定された問題まで終えるのと、紗里さりの料理が完成するのはほぼ同時だった。


「できたわよ」

「はーい」


 急いでテーブルの上を片付け、除菌シートでテーブルを拭いて、いつでも料理を置けるようにする。


 そして、テーブルの上に置かれた料理を見て、若菜は眼球が落ちそうな程目を開く。


「いっぱいだぁ……」

「遠慮せず食べて」


 疲れたのだろうか右腕を軽く振りながら紗里が笑う。


 魚料理に肉料理、野菜や豆腐など色んな料理が並ぶ。


 迷った末、よく分からなくなった紗里は、思いついた料理を片っ端から作ったのだ。


 あまりの量に、最初は戸惑っていていた若菜だったが、その料理の盛り付けの綺麗さに、徐々に頭の中が食欲に染まっていく。


「美味しそう……」


 緊張と疲れから、腹を満たして安心したい欲求に駆られる。早く食べたい、溢れ出る唾液を飲み込んで待つ。


「ごめんなさいね、ご飯は冷たいものなの」


 お茶碗にご飯をよそった紗里が戻ってくる。


 食器も出してもらい、いつでも食べることができる。


 紗里と若菜が向かい合って座る。


「「いただきます」」


 手を合わせて食事が始まる。


 紗里は若菜の様子を観察しながら、ゆっくりと食べている。我ながら上手くできた自信はある。ただ、若菜の口に合うかどうかなのだが――。


「美味しい!」


 細く長い息を吐く。


 顔の筋肉の状態から見ても、無理を言っているようには見えない。その笑顔だけで紗里はもうなにもいらない。


 若菜に食べてもらう手料理、少し張り切りすぎたが、この程度問題にはならない。ただ、緊張で料理中余計な力が入ってしまい、箸を持つ右手が思うように動かない。


 実は、常人離れの運動能力を持つ紗里だが、その運動能力に体がついていってないのが現状だ。高校生の頃には自分の活動限界などを把握していたため、体を壊すことは無くなったのだが、今日は別だった。


 このことを知っているのは若菜の両親のみ、学校にも一応伝えていたが詳細には伝えていなかった。


「紗里ちゃん食べないの?」


 箸を動かさない紗里を不思議に思った若菜が首を傾ける。


「え? ああ、若菜の口に合うかどうか心配だったの」

「めちゃくちゃ合うよ! 毎日食べたいぐらい!」

「またそんなこと言って。本気にするわよ?」


 そう言いながら、比較的楽に口に運ぶことができる豆腐料理を食べる。


 そして、いました自分の発言に頭が真っ白になる。真っ白になりながらも若菜の表情を確認する。


「えー、本当に~?」


 若菜はいつも通り、紗里の冗談だと思っている様子だ。


 そのいつも通りの反応を見て、悲しいような、安心したような、なんとも言えない感情になる紗里であった。

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