若菜と紗里 私のせい 5
着替えはどうするのかと聞かれたが、紗里の物を借りるということで決着。あくまでも勉強のためだ。取りに行く時間があるのなら、その時間を勉強に充てたい。
「ああ……人の家に泊まるの初めてだ……」
「そうなの? てっきり、経験があると思ってたわ」
「中学から部活漬けだったしそういうのは無いよ。私の青春はバスケ一色」
勉強はつつがなく進んでいた。緊張はしていても、勉強に集中すれば特にどうにもならない。そしてある程度進んだところで、休憩がてらの雑談に興じる。
「でも楽しそうね」
「うん。好きなことだからね!」
そう言って、屈託なく笑う若菜が、紗里は好きだった。裏表無く、笑顔を絶やさない。こんな自分のことを怖がらないでくれる若菜が。
「バスケ以外にも、好きなことはあったりするの?」
「え? うーんそうだなぁ……、学年のみんなと一緒に過ごせるのは好きだよ」
「若菜達の学年は、みんな仲が良いのよね。羨ましいわ」
「ほんと怖いぐらい仲がいいよ。紗里ちゃんは違ったの?」
「違ったわよ。普通の学年ね、仲のいいグループもあれば悪いグループもある。関わりの無いグループもあったわね」
「普通だね」
改めて、自分の学年の仲の良さを自覚する。
「
間違いなくその理由は涼香にある。
それは紗里も分かっているらしく、嬉しそうに微笑んでいる。
「そうね。もうそろそろ夕食にする?」
「もうそんな時間? うわ、ほんとだ」
太陽も、もう沈む間際だ。
「じゃあ作ってくるわ。その間、ここまで、問題の解説を書いておいて」
「うっ……、わかった」
若菜が再び勉強に戻ったのを確認すると、紗里は立ち上がりキッチンへ移動する。
そして――。
(待って待って待って‼ 若菜が私の手料理を食べてくれるの⁉)
壁に頭を打ちつけた。
「紗里ちゃん大丈夫?」
「大丈夫よ‼」
(なにを作ればいいの? 材料はあるけれど、若菜の胃袋を掴むには……王道? それとも目新しさ? それとも単純に量が多ければいいの?)
冷蔵庫を開けたり閉めたり。
あのいっぱいいっぱいの状態で、よく若菜に勉強をさせるという選択を選べたものだ。
若菜も手伝う、ということになれば、それはそれで嬉しいが、それよりも緊張で凝ったものを作れなくなってしまう。
ここで深呼吸。
若菜の様子を窺ってみると、頭をもしゃもしゃ、勉強に集中できているようだ。
(魚がいいのかしら……? やっぱりお肉? それかヘルシーな野菜や豆腐料理?)
考えれば考える程決められず、ぐるぐる目を回す紗里である。
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