涼香の誕生日会にて 22

 長いような、短いような、涼香りょうかの誕生日会ももう終わりに近づき、三階では弛緩した空気が漂っていた。


「もうそろそろ、終わりにしましょうか。私達の、この時間を」


 それっぽい言い方で、涼香は誕生日会の終わりを告げる。主役がそう言っているのなら――と、反発するものは誰もおらず、全員が帰る準備を始める。


 しかし粗方片付けは済んでおり、後は防音材を片付けるだけ。


 その前に――。


「みんな、今日はありがとう」


 人数が多く、分散下校をするため、他の同級生が帰る前に涼香がマイクを持つ。


「私のために、ここまでしてもらって嬉しいわ。みんなといられた高校生活、とても楽しかったわ。一生忘れない自身があるわ!」


 ただの感謝の言葉なのに、そのただの感謝が、全員の心にスっと染み込む。


「みんなありがとう」


 深々と頭を下げた涼香が、顔を上げる。


「最後に一つ。涼音すずねは可愛いわ、だけど誰にもあげないわ。以上よ‼」


 最後にいつも通り決めた涼香の話が終わる。


 これにて、涼香の誕生日会は終わりを迎える。各々、防音材を片付けに行ったり、機材を片付けたり、帰ったり、事前に決められた行動をする。


 涼香は、このまま帰るのもアレだしと思い、片付けを手伝おうと、機材周りにいる菜々美ななみに声をかける。


「菜々美、手伝うわよ」

「触らないで」


 防音材を片付けている階段まで行き――。


綾瀬彩あやせあや、手伝うわ」

「触るな」


 またもや拒否されてしまった。


「涼音……」

「当然の反応ですね」


 恐ろしいものを見たような表情をする涼香の隣で、涼音がうんうん頷いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る