涼香の誕生日会後にて

 片付けが全て終わり、殆どの三年生も分散下校をして、今残っているのは十数人の生徒のみだ。


「そろそろ、私らも帰ろっか」


 一日の疲れを絞り出すように、若菜わかなが大きく伸びながら言う。


「送って行くわよ、若菜。それに、涼香りょうかちゃんと涼音すずねちゃんもプレゼントを持って帰るのは大変でしょ?」

「助かるわ、委員長」「ありがとうございます」


 紗里さりが家まで送ってくれるということで、ありがたく乗せてもらうことにする。


「じゃあみんな出よっか」


 最終下校時刻にはまだ早いため、まだ部活動中の下級生にはあまり会わないだろうから全員の動きはゆったりとしている。


 職員室へ鍵を返しに行った若菜達を置いて、先に校内から出ていく。たまにすれ違う下級生に集まっていた事を悟られぬように、涼香の抱えるプレゼントの量は多く、それは全員で分担して持ち、文化祭の準備感を醸し出してやり過ごす。


「水原先輩! 誕生日おめでとうございます!」

「ありがとう」


 それでも、どこから情報が漏れたのか、涼香にお祝いの言葉を贈る下級生もいたりする。


 涼香に礼を言われた下級生は、声にならない声を上げて走り去って行く。


 そんなこんなで正門まで来ると、若菜達も合流、車に乗った紗里も合流した。


 荷物を荷台に詰めさせてもらい、若菜は慣れた様子で助手席に座る。


「みんな、今日は本当にありがとう」

「ありがとうございました」


 手を振る涼香と、頭を下げる涼音は、後部座席に乗り込む。


「今日は招待してくれてありがとう」

「じゃまた」


 若菜と紗里も一言述べ、車がゆっくりと走り出す。


 手を振って見送った同級生達、その中の誰かが口を開いた。


「……宮木みやぎ先輩って、若菜のこと絶対好きだよね?」

「でも、多分春田はるたは先輩の好意に気づいてない」

「「「「「「「「「えぇ……」」」」」」」」」

「去年からそうかもって思ってたんだけどね、尽くが空振りというか、若菜が鈍感すぎるというか……」

「アイツ、その場の空気でそれっぽいこと言えるのにな」

「あの水原とは違う、完璧な宮木先輩でもできないこともあるんだ……」

「宮木先輩、結構若菜にアピールしてるのに……」

「運動部の弊害?」

「いやいや、若菜が鈍感すぎるだけ。もしかすると、宮木先輩は押すのが苦手だったりとかありそうじゃん? 知らんけど」

「え、なにそれ。綺麗だけじゃなくて可愛いところもあるの?」

「羨ましい……」

「でもまあ――」


 紗里に、頑張ってくださいという気持ちを込め、手を合わせる一同であった。

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