涼香の誕生日会の準備中にて 3

 ――一方その頃。


芹澤せりざわ凛空りくにクッキーをあげたい。凛空にワタシを食べてもらうにはどうすれば?」

「うーん……入れるのもいいと思うけど、直接飲んでもらう方がいいと思うなあ。菜々美ななみちゃんには直接わたしを食べて欲しいし」

「まさかやったことが……⁉」

「まだ無いよ。普通のキスでも菜々美ちゃんは爆発寸前になるし……」

「なるほど……」


 家庭科室で涼香りょうかの誕生日会用のケーキを作る準備の最中、一人凛空への愛を込めたクッキーを作ろうとしている真奈まながここねと話していた。今年度から、真奈はしばしば家庭科部に通い、部長であるここねから料理を学んでいるのだ。


「待って怖いんですけど⁉」


 家庭科室にいるのは、ここねと真奈の二人だけでなく、他の同級生もいる。


 本格的に作り始めるのは、涼音すずねがやって来てからのため、今は準備の時間だった。その準備の時間中に聞こえてきた物騒な会話に、他の同級生は顔を引きつらせている。


「え、そうかな?」

「好きな人に自分を味わってほしいと思うのは当然のこと」


((((((((((((((菜々美と凛空ってすごいんだなあ……))))))))))))))


 その場の全員の胸中が一致する。


 そんななんともいえない空気の中――。


「おはようございます」


 涼音がやってきた。


「……え、なんですか? この空気」


 この空気に戸惑う涼音。しかし――。


「よしっ、涼音ちゃんが来たから始めよう!」

「オッケー、私スポンジやるわ」

「粉篩うね」

「涼音ちゃんはこっちー!」


 今までの空気が嘘だったかのように動き出す。


「涼音ちゃん、早速作ろっか」

「ワタシは凛空のためにクッキーを作る」

「凛空ちゃんには直接だよ」

「分かった」


 なにがあったのだろうか? とよく分からない涼音だったが、涼香のことが最優先のため、手を洗い、用意されてあったエプロンをつけ、早速ケーキ作りに取り掛かるのだった。

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