涼音の部屋にて 23

 布団に包まったはいいが、やはり眠れない涼音すずね


 このまま布団の中にいてもしんどいし暇だ。ということで、涼音は布団からのっそりと顔を出す。まだ涼香りょうかは部屋の隅でスマホを見ている。そろそろ終わる頃だろうか。


 涼音の視線に気づいた涼香がイヤホンを外す。


「眠れないの?」

「やっぱ無理です」


 時刻は深夜だが、やっていることはいつもと変わらない。


「普通の映画でも見ましょうか」

「とか言って――」

「そんな訳ないではないの。怖くない映画よ」


 よっこらせと涼香が立ち、涼音の隣に腰を下ろす。二人ベッドに座り、壁に背を預ける。


 涼香が見ようとするのは、昭和の怪獣映画だった。


「また随分前のを……」


 そんなことを言う涼音の左耳にイヤホンを入れる。もう片方は涼香の右耳に、イヤホンを二人で片耳づつ使うのだ。


 頭をくっつけながら、小さな画面に映る映像を見る。


 そしてここで涼音は気づいた。


 別にイヤホンしなくていいじゃないのか――と。


 ホラー映画の音を聞きたくないからイヤホンを強要しただけであって、別にホラー映画でなければそうする必要は無いのだ。


 涼音は涼香のスマホから伸びているイヤホンの線を抜く。


「なにをするのよ」

「イヤホンいりませんよね?」

「……確かに」


 スマホから映画の音声が流れる。外したイヤホンは適当なところに置いていく。


 それでも、二人の距離はそのままだった。

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