水原家にて 42

 涼香りょうかがリビングへ戻ると、涼音すずねは封筒を取ろうと悪戦苦闘中。


「なにでくっ付けてんの……‼」


 必死になっている涼音の手に、自分の手を重ねた涼香。


「なんですか」

「温めると取れるらしいわ」


 さっき母が言っていた。


 冷えるとくっ付く素材の糊で封筒をくっ付けたとのこと。


「体温でも剥がれると言っていたわ」

「……なるほど」


 それを聞いて涼音は、手のひらで封筒を覆う。


「擦るのよ!」


 涼香の掛け声で封筒を擦り始める。摩擦熱で時短という訳だ。


 すると徐々に封筒が動いていくのが分かる。もう間も無く取れるだろう。


「もう取れますね」


 涼音の言う通り、その後すぐにペリっと封筒を取ることができた。


 やりきった感を醸し出す涼香、剥がすために頑張ったのは涼音だ。


 すると背後から、手を叩く音が聞こえた。


「よくやったわね。あげるわ、お小遣い」

「当然でしょう」


 腕を組んだ涼香が振り返る。振り返ると、高校時代の体操服を着た涼香の母がいた。


 中学時代の体操服を着た娘と、高校時代の体操服を着ている母。見た目がそっくりなことも相まって、タイムマシンでこの時代にやって来たかのようにも見える。


 おそらくこの状態の涼香の母が高校へ行っても、下級生は騙せると思う。


 しかしそんなことどうでもいい涼音は、封筒の中身を抜き取りポケットに入れる。


「夜食作ったから」

「ええ、ありがとう」

「じゃあ寝る、おやすみ」

「おやすみなさい」


 そして涼香の母を避けて、二階へと向かうのだった。

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