水原家にて 40

「それでこれ?」


 涼音すずねは僅かに怒りが滲んだ声で言う。


 メモを置いてるのなら、肉を焼いた状態でなくてもよかったのではないか。


 それとも、この状態も涼香りょうかの母の掌の上なのだろうか。


「大方、お詫びとお礼でお小遣いをくれるといったところかしら」


 涼香が炊飯器を開けて言う。


「なんともいえない」

「とりあえず、作ってあげましょうか」


 この時間でも、涼香の父は地下室に籠って実験をしているのだろう。夜食を持って行くのは母がやるだろうし、父に会わなければ夜食を作るのは嫌ではない。


 二人は早速夜食を作りにかかる。作るといっても、涼香にできることは無いが。


 涼音はフライパンで焼いている物を確認する。


「大葉と梅肉を豚肉で巻いたやつか」


 それなら、あとは甘じょっぱいタレを絡めて火を通せば完成する。


「おにぎり握りましょうか?」

「先輩はなにもしないでください」

「…………」

「醬油取ってください」

「まかせなさい」


 涼音は受け取った醤油と砂糖などをボウルに入れ、混ぜ合わせる。


 混ぜたそれを匙で掬い、涼香に味見してもらう。


「どうですか?」

「いいわね」


 味を確認し終えれば、タレをフライパンに入れて豚肉を焼いていく。


 タレの焼ける香りが食欲を湧かせる。もう寝る前だから食べられないが、また今度作ってみようと決めた涼音である。


 焼き終えると火を止め、どうしようかと考える。


 夕食などであれば、このまま皿に盛るのだが、夜食となるれば、おにぎりの具材として入れる方がいいのだろうか。


「――面倒ですし、おにぎりに入れましょうか」

「そうね、まかせなさい」

「先輩はなにもしないでください」

「…………」

「ラップ取ってください」

「まかせなさい」


 広げたラップにご飯を置き、その上にできた肉を乗せておにぎりを握る涼音である。

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