水原家にて 39

 幕を閉じた――と思ったのだが。


 これで終わりなんて、その気になっていたあなた達の姿お笑いだったわよ、と言いたげに、涼香りょうかの母はお小遣いの入った封筒を置いて入浴へ向かった。


 時刻は日が変わる少し前、涼香と涼音すずねはなんやかんやで寝ていることが多い時間。


 無条件でお小遣いを渡すつもりは無いが、なにかと理由を付けてお小遣いを渡したいのだ。


「さあ、見せてもらおうかしら」



 涼香の母が風呂に入った頃――。


「さて、行ったわね」


 涼香と涼音はひょっこりと現れた。


 お小遣いは獲得できず、終わったはずなのだが、なぜか涼香の母は封筒を持ったままだったのだ。


 それはつまり、なんらかの形で渡す気があるということだ。


「リビングですね」


 二人は恐る恐るリビングを覗き込む。涼香の父がいれば、お小遣いは貰えなくてもかまわない。


 しかし、幸いにもリビングには誰もおらず、テーブルの上に封筒が置いてあるだけだった。


「あったわ――この匂いは?」

「……なんか焼いてますよね⁉」


 慌てて涼音がキッチンへ向かうと、そこにはフライパンで焼かれているお肉があった。


「うわあ危ない‼」


 IHとはいえ、誰もいないのに物を焼いているなんて危ないにも程がある。


 急いでフライパンを上げた涼音、なにもならなくてよかったと深く息を吐く。


「涼音、見なさい」


 あとからやってきた涼香の声を聞いてキッチン全体を見て見ると、なぜか料理器具が置かれている。


 そしてメモ書きが一枚。


『お父さんの夜食、作ってあげなさい』


 と書いてあった。

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