水原家にて 37

 そう言って涼香りょうかの母は構える。


 そうこなくてはと、涼音すずねも構えるが――。


「私にやらせてくれないかしら。ここらでおあそびはいいかげんにしなさいというところをみせてあげたいわ」

「どうせ先輩負けるじゃないですか」


 出鼻をくじかれた涼音が心底面倒くさそうな目を向ける。


「涼香風風拳よ」

「知りませんよ」

「どっちでもいいわ、始めましょう。それとも、待ってあげましょうか? 三時間だけ」

「先ぱーい! はやくじゃんけんしてくださーい!」

「「ということで、始めましょうか」」

「うわ急に切り替えた」


 なんやかんやでようやく始まる。ただじゃんけんをするだけなのに、どうしてこれ程までに疲れてしまうのか。


「「最初は――」」


 額に手を当てた涼音の隣で、最初の声が聞こえる。この時点で涼香の負けは確定したも同然である。


「パー! 私の勝――」

「あなたの負けよ」

「なんですって⁉」


 涼音が見ていないうちに、案の定勝負は決したようだ。


 パーを出す涼香に対して、母はチョキを出していた。


「でしょうね」


 というかなぜ母相手にその手が通用するも思ったのか。


 高度な心理戦があったのだろうなあと、適当なことを考える涼音である。


「さあ、おつぎは誰かしら」

「なんでまだそれ続いてんの?」

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