水原家にて 36

「ということで、お小遣いは無しね」

「「そんなあ⁉」」


 涼香りょうか涼音すずねは、恐ろしいものを見たような表情で涼香の母を見る。


「当然じゃないの。二人とも不正解だし」

「あたし正解してたじゃん!」

「でも涼香の答えを選んだでしょう? それじゃダメよ」


 涼音は頬を膨らませるが、涼香の母には聞かなかった。


「涼音には渡していいのではないの? 私も分かっていたけど、涼音は正解したではないの。私も分かっていたけど」

「涼音ちゃんに渡したら、あなた文句言うでしょ?」

「当然よ‼」


 そこで会話は終わったのだが、涼香の母はまだなにかありそうな様子で座っている。


 なぜ片付けもせずにそのまま座っているのか、なにかに気づいた涼香が手を挙げる。


「はい涼香」


 母が涼香を当てる。


 名前を呼ばれた涼香が得意気な顔を浮かべる。


「お小遣いは貰うわ!」


 それはどうして? と目で続きを促す母。


「片付けはしたからよ!」


 いつものお小遣い探しの流れは、汚れている部屋の掃除をしながらお小遣いを探すというものだ。今回は汚れてはいなかったが、災害食の入れ替えという片付けをやって見つけたのだ。中身丸ごとはダメでも、お手伝い代を貰ってもいいではないのかと。


「それなら、最低賃金を探した時間で割った額を渡せばいいのね」

「最低賃金っていくらよ‼」

「千円ぐらいじゃないんですか」


 涼音の言葉に、またまた恐ろしいものを見たような表情を浮かべる涼香。


「危うく嵌められるところだったわ……‼」


 そんな涼香を放って涼音は言う。


「じゃんけんしようよ」


 涼音だってお小遣いが欲しいのだ。だから易々と引く訳にはいかない。


「そうくるのね」


 なにが、そうくるのね、なのかよく分からない涼音であったが、あの涼香の母なのだ。よく分からなくても別に問題無い。


「いいわよ。じゃんけんで私に勝つことができたのなら、このお小遣いはあなた達にあげる」

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