ベッドの上にて 8

 その日の夜、早々にベッドに飛び込んだ涼香りょうか涼音すずねが聞く。


「なにかあったんですか?」


 涼音が帰って来た時から少し様子が違った。勉強でよっぽど疲れているからだと思ったのだが、なにやら違う気がするのだ。


「……お母さんとね、進路のことを話していたのよ」


 仰向けになった涼香がそう言った。


「決めたんですか?」

「ええ、若菜わかなの目指していてる学校へ行くわ」

「よかったです」


 これで一安心だ。涼音も寝ようと、ベッドに入ろうとする。


「理由、聞きたい?」

「空けてください」

「聞きたいと言いなさい‼」

「邪魔ですね」


 どうして進路をそこに決めたのか、その理由を聞いてほしい涼香は頑なに動こうとしない。


「じゃあ帰りますね」

「反抗期⁉」

「ああもう! なんでですか‼」


 よくぞ聞いてくれたわね、と起き上がる涼香。涼音の入るスペースを空けてベッドに座らせる。


 涼香の隣に座った涼音は、心底面倒そうな目を向ける。


「あんなに引っ張ったのに大した理由じゃないのは分かってるんですよ」

「私にとっては一番大切な理由なのよ」


 進路の話になると、いつもと雰囲気が変わってしまっていた。この前なんて、涼音に怒鳴ってしまったのだ。涼音達は大したことないと言っているが、涼香にとっては本当に大切なことだったのだ。


「私だけの進路では無かったのよ。私としたことが、失念していたわ……‼」


 拳を握りしめる涼香。


「あたしはあの大学に進学する予定でしたからね」

「どうして言うのよ!」

「いや、言おうと思ってたんですけどね。先輩がその先は言わせない――って言ったせいですね」


 それを聞いて、髪を払う涼香であった。

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