清水家の前にて

「着いたわよ」


 遂に菜々美ななみの言う、機材を貸してくれる先輩の家へと着いた一行。


 家はこの住宅街に馴染むデザインだ。


「緊張するなあ……」

「取って食われる訳じゃないと思うんですけど、確かに」


 初めて会う、それも学校の先輩だという情報だけで緊張する。


 ノロノロと若菜わかな涼音すずねは車から降りる。


 既にここねがインターホンを押していたらしく、二人が降りたと同時に家の扉が開いた。


 中から顔を出したのは、一目で寝起きと分かる、ボサボサの髪をした女性だ。


「ん……? なんで二人が……」


 その女性は、寝ぼけまなこで菜々美とここねを見る。そしてその後ろにいる涼音と若菜をみて、目を見開く。


「ハーレム……⁉」

「違います」


 即座に否定する菜々美。


「あっ……そうなの……」


 そしてそのままゆっくりと扉を閉めようとする。


「ちょっと待ってくださいめいなさん!」


 慌てて菜々美が扉を閉めさせないよう引っ張る。


「めいなこれから二度寝するのー‼」


 涼音は表札を確認する。


 ――清水しみずめいなは、菜々美と扉での攻防を繰り広げている。


「近所迷惑にならないのかな?」


 若菜は隣にいるここねに聞いてみる。こんなに騒いでいると、近所から怒られると思うのだが、閑静な住宅街では人の出てくる気配は無い。


「防音仕様の家かもしれませんね」


 二人がそんなことを話している間も菜々美とめいなの攻防は続く。いい加減、このくだりに飽きたのか、ここねも加勢する。


「めいなさん、いい加減してほしいんですけど」

「ひぇっ、ここねちゃんの目が怖い……⁉」


 そんな光景を見ながら。


「先輩感無いですよね?」

「んー、まあそういう先輩もいるよ」


 涼音と若菜は、暑いなあ、と思いながらも、このやり取りが終わるまで待つのであった。

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