水原家の玄関にて 3

 その後、特に中身の無い会話をしていると、涼香りょうか涼音すずねの家付近までやって来た。


 降ろすのは涼香の家ということで、紗里さりは涼香の家の前で車を止める。


「委員長、ありがとう」

「今日はありがとうございました」

「じゃあまた」

「また今度」


 二人が頭を下げると、紗里と若菜が手を振り返す。


 そして車がゆっくりと走り出し、二人の視界から消える。


 空は茜色に染まったまま、残ると言っていた三人はまだ遊んでいるだろう。


「暑いですね」


 まだ涼香の家も、涼音の家も両親は帰っていないだろう。


「早く入ってエアコンつけましょう」


 少し前、涼香の家鍵を貰ったのだが、それを忘れている涼音は涼香を急かして鍵を開けさせる。


 涼香が無言で家の鍵を開け、二人は直射日光が当たらないだけマシで、じっとしていると汗をかいてしまう玄関に立つ。さっさと靴を脱いでリビングの冷房を起動させに行こうとする涼音を涼香が後ろから抱きしめる。


「ちょっと、暑いんですけど」


 鬱陶しそうに涼音が涼香を振り解こうと抵抗するが、思いの外涼香の抱きしめる力が強いからか、それともこの後のことを解っていてか、早々と涼音は諦める。


「なんですか」


 いつもとは反対に、涼音が困った子の相手をするように涼香に問いかける。


「ごめんなさい」

「……別に、気にしてませんよ。それに、先輩の言うことは最もですから。謝らないでください」


 それでも――と、言葉を続けようとしたが、涼香の鼻を啜る音が聞こえたため、涼音は黙って涼香の手に手を添える。


 だけどこれだけは言わせてほしい。


「マジで暑いんで、部屋でやってもらっていいですか?」

「涼音の意地悪ぅぅ……‼」


 涙交じりの涼香の声が響いた。

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